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第1話

世間に公表した日から、優一が元に戻った気がした。前みたいにケタケタ笑い、外を平気で歩けるようになった。…まあ、俺が手を繋がなきゃ、だけど。こうして、堂々と小さな手を握り歩けることは夢のまた夢だと思っていた。じろじろと感じる視線も、嫌悪感はない。ただひたすらに、「こいつは俺の」を自慢できる優越感だった。  「見て、タカさん!夕日が綺麗!」  公園がオレンジ色に染まる。 僅かなことにも感動しては、幸せだと微笑む恋人に、毎日心を奪われる。  溢れるような曲が浮かび、脳内で構成すると、微笑んで待っていてくれる。少し詰まって、優一を見ると、冷たくなった唇が触れて熱を分け合う。俺が弱いと知っている上目遣いで、ニコリと笑い、「早く聴きたいな」と俺の服を少し握る。    (こいつ…っ!)  まんまと煽られて目が離せなくなると、クスクス笑って、「やった!俺の勝ち」と、いつからしていた勝負なのか分からないがご機嫌だ。  まだ少し動揺したり、調子が悪い日もあるが、俺がそばにいれば安心してくれる。依存性が高い2人なのは自覚しているが、今更離す気もない。 お互いの左手薬指を彩る光は、絶対に濁らせない。  「タカさん、あのね。…公表したのに、マツリさん、まだ俺にオファーしてくるよ」  最近、話そうか迷った様子だった優一がやっと口にした。マコちゃんから聞いていたから分かってはいたが、不安を取り除いてやりたい。  「愛希さん…辛くないのかな」  「愛希が自分で選んだ道だろ。」  「そう…かなぁ。」  「お前は選ぶなよ?お前の居場所はここと、RINGだから」  分かってるよ!とクスクス笑う優一は、まだ不安が見えた。  「何で、俺のさ、その…。見たいのかな?」  「可愛いからだろ」  「可愛くないよ。」  「好みなんじゃねーの?」  「気色悪い。」  バシッと言い捨てて、優一はため息を吐いた。  「バンドだったらこんなことにならなかったかな?俺はね、音楽ならなんでもいいって思ってたけど、バンドがいいなぁ。音楽だけを届けたい。」  「うん、やればいい」  「払拭できないかなぁ?この…誰でもヤれそうっていうレッテル」  「できるさ」  公表した時の世間の声は、予想通りの誹謗中傷もあったが、逆に認めてくれる声も多かった。この件をきっかけにカミングアウトする芸能人も多かった。  「だとイイけど。あー、柚子のオファー受けようかな」  柚子は不倫騒動からの復帰の際、タカも優一も驚く公表をした。  「うちには、大切な彼女がおるから。その子は傷つけない。」  彼女!?と驚いていると、優一はふふっと笑って、「あずきさん」と答えを教えてくれた。謹慎中に支えてくれたあずきの存在は大きかったようだ。  「柚子とのバンドはイイけどさぁ?…なんか足りないんだよね。2人ギターだし。」  「音が限界あるかな」  「タカさんもやろうよ」  「俺は忙しいの。やりたいけど、結構詰まってんのよ」  タカは今日帰ってからの流れを頭で組み立てた。  「なら帰る?」  拗ねたように言う優一が可愛いくて、もう少し、と言うと顔を真っ赤にして下を向いた。  「ごめんなさい。今のは、子どもっぽかったね」  自覚があったようで、落ち込んでしまった。いちいち可愛い反応に心臓がうるさい。  (飽きないよな、こいつは)  もともと可愛くて素直な子が好きだ。  近寄り難いと言われるタカに、遠慮なく向かってくる子にしかタカは心を開かない。器用で、完璧主義で、キャパオーバーになりやすい優一。支えたい、そばにいたい、触りたいと、欲求が溢れて止まらない。  「なんだよ。ずっと見てないでなんか言ってよ」  拗ねて少し口が尖り、柔らかい頰が少し膨らむ。  「優一、愛してる」  耳元で囁くと、ビクッと肩を跳ねさせて、可哀想なくらい顔を真っ赤にしてこちらを見ている。  「〜〜〜」  「優一」  指を絡めると、優一は湯気がでそうになり俯いた。  「タカさんの意地悪!ズルいよ」  「ははっ!何がだよ」  「こうして大人の色気つかってさ!」  「つかってないよ。優一がそばにいるから色気付いちゃうの」  「やだ!もううるさいっ!」  「こーら。暴れないの」  ジタバタする小さな身体を抱きしめる。  (子ども体温…あったかいな)  抱きしめると大人しくなる。おや?と下を見ると、目を閉じて顔をあげている。  (ふは!キスして、って?)  そっと唇を塞ぎ、舌を絡めるとビクビクと跳ねる。  (シたくなってきたか?)  背中の服を握られ、足腰がガクガクとしはじめた。  「っぷはっ、はーっ、はーっ」  「気持ちよかった?」  「ん…。」  そう声を漏らし、抱きついてきた優一は、反応した熱を服越しに擦り付ける。そして顔を上げると、潤んだ大きな瞳と、柔らかい唇。  「タカさん、シたい」  「っっ!!」  まんまと煽られて、急いで車に乗せ、猛スピードで家に帰った。  ガチャン  「んっ…ん、は、ン……ッん!!んむっ!」  部屋に入った瞬間、ベッドに押し倒して口内を激しく侵す。キスが好きな優一はたまらなさそうに俺の髪を撫でてくれる。  仕事が…と一瞬過ったが、目の前の据え膳を放置するわけがなかった。 髪を撫でてくれていた手をベッドに縫い付けて、膝で優一の熱を刺激すると、目をぎゅっと瞑り、ガクンと腰が浮いた。  「ンんーーッ!!」  キスで飲み込んだ声を少し残念に思って、唇を放すと、真っ赤な唇はお互いの唾液で濡れ、濡れたまつ毛と高揚した頰、下がった眉毛がたまらない。  「優一…」  「はーっ、はぁ、っ、ん、っは、」  「ごめん…強すぎたか?」  「は、っ、はっ、大丈夫…」 ふにゃりと笑う顔に、心臓がぎゅっと痛む。何度も何度もこの顔を見ているのに、何度も何度もドキドキする。  「ん…お前、本当…可愛いな」  「えへへっ…やったぁ…」  「脱ぐ?」  「脱がせて?」  上目遣いで笑って、甘えた顔をする。声だって随分甘くなった。だんだん大人になって、大人の色気が濃くなってきた。  下着ごと脱がすと、寒さにふるりと震えて、恥ずかしそうに笑う。もじもじと擦り合わせる真っ白な腿に釘付けになる。  (エッッッロ!!)  首筋を舐めながら、ビショビショのそこに指を這わせると、息をつめたような声を出し、力が入る。  「優一」  「っぁ、っ、分かってる…っ」  力を抜こうと必死に息を吐く。期待で強張る身体を弛緩させるため、またゆっくりと舌を絡める。すぐにとろんと気持ち良さそうに力を抜いた優一に、指を差し込み、解していく。  「アァ!!」  「ん、もう少し我慢な。まだ広げるから」  「っぁ、ぅ、っああ!っはぁ!ぁあ!」  グチグチと鳴る音は、優一の羞恥を煽るのは十分で、どんどん快感に酔っていく。  (可愛い、可愛い)  「タカっ、さん、っ!タカさん」  「まだ解れてないから…もう少し待て」  「っぁ、ん、っ、イっ…」  「ダメだって」  「やぁっ!だっ、て、もう!っ、っ、っぁ、っぁ、」  理性を失った優一は、ぼんやりと天井をみて、小さく呼吸し始めた。  (イっちゃうか…)  ググッと背中が反っていく。  目に焼き付けようと、優一の真っ赤に染まる顔を見続けた。  「っぁ、あっ、あっ、あっ!あっああ!ーーッ!アァアア!!!」  ビュクッと吐き出して、必死に息をする。  (たまんねぇ…こいつのイき顔)  顔中にキスをして、首筋まで舐めとる。  「タカさん、っ、ビリビリっ、する」  「気持ちよかったならよかった」  「タカさんの、入ったら、すぐ、出そう」  腕で顔を隠して素直に言う優一に、抑えられない衝動のまま、熱をぶち込んだ。  「ッィアアアーーッ!」  はくはくと呼吸をする優一を気遣ってやれず、自分の呼吸が激しくなる。熱い中は搾り取るように蠢き、悦びを表現する。  (ごめん、抑えられない…っ)  腰を持ち上げ、上から叩きつけるように腰を振ると、優一は目を見開いて叫ぶ。涙が溢れて、泣かせたくないのに、腰は止まらず優一のイイところだけを攻める。  「っぁあああーーっ!やっ、や、っぁあ!!もぅっ!あっああ!」  「ふっ、っは、っぅ、ぁ、」  訪れそうな絶頂に、ひたすら必死に奥を穿つ。優一が俺の腕に爪を立てて、その痛みさえ快感に変わる。  ぎゅぅぅぅぅ  「っ!?」  思いっきり中を締め付けられ、抜こうと思ったが、腰を優一の足が絡め、奥へと押し込む。  (間に合わないっ)  「ッアアア!!」  「くぅ…っぁあ!!」  ドクドクと注ぎ込むと、優一は意識を飛ばした。  優一の後処理をして、温かい毛布をかける。気持ち良さそうに寝る姿は幼い。  (さぁー!養うためにも働きますか!)  作業部屋に行き、仕事モードに切り替わる。  次に優一に会ったのは3日後だった。子犬みたいに走ってきて抱きついてくるのを力強く包む。  「おかえり、タカさん」  俺の好きな顔で笑う。  優一には簡単に骨抜きにされてしまう。  世間では「天才」と呼ばれる俺が、優一の前では1人の、ただの恋をする男になれる。  「ただいま、優一」  髪をくしゃくしゃとなでると、楽しそうに笑う。この笑顔を守るために、惜しみなく自分の才能を発揮する。嫌っていた「天才」という称号を背負うことも苦ではなくなってきた。あの日覚悟してから、怖いものはない。  「タカさん、ぎゅってして?」  大きな目をパチパチさせて、見上げてくるこのあざとさも、愛しくてたまらない。  そんな、俺たちの惚気た話。 

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