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「誤作動」
やっと、マンションに帰ってきた。
啓介と二人きり。
たった二泊しかしてないのに、なんだか二人になって、ドキドキする。
なにこれ、変なの。
今までだってさんざん二人で居たのに。
「ただいまー」
わざとちょっと大きな声で、部屋に向かって言いながら中に入ると、熱気がこもってて、すごく熱い。
手を洗ってから、まずエアコンつけるか、とか思ったら。
「雅己、一回、窓開けて空気、流そう」
「あ、うん。そだね」
「全部、全開でな。オレ寝室とかの方、開けてくるから」
「りょうかーい」
手分けして、家中の窓を全開にした。さーっと風が通り抜けていく。
「雅己、先、洗濯もの、出そうや」
言われるがまま、玄関に置いた荷物から、洗濯ものを出して、とりあえず洗濯機に押し込んだ。
「着てるの脱いだら、回そうか」
「うん」
なんだか啓介、とつてもちゃきちゃき動いている。……ってまあ、いつもそうか。家事やってる時は、なんかほんと手際いいし。
「雅己、シャワー浴びてきて」
「あ、うん」
あれ、一緒に、じゃないの? と、一瞬そんなことを思っていると、啓介はオレのことはほとんど見ずに、鞄を開いてる。
「その間に、ここ全部、片付けとく」
「え、オレのも? いいの?」
「そんな無いやろ?」
「まあ、服出しちゃえば、そんなには無いけど」
「じゃあシャワー浴びてきて」
「はーい」
もう、言われるがままの自分がちょっとおかしい。
啓介はほんと、リーダーっぽい役、似合うよな。
旅行中も、先輩達も居るのに、すげー仕切ってたし。まあ計画立てたのがこっちだから、余計かもだけど。
髪を洗って、体を洗いながら――少し首を傾げた。
首を傾げながら、そもそも不思議がってる自分のことが、また不思議すぎて、んー、と考える。
実は。帰ったら……すぐ、するのかと思った。
なんなら、玄関でキスしちゃうかなーとか。
もしかしたらそのまま、しちゃうかなぁ、とか。
だって、なんか、合宿――すごく、中途半端だったしさ。
啓介の方が、いつもそういうのすごいから。
……そこまで考えていたら、顔がかぁっと熱くなった。
わー。オレってば。
なんか。……ちょっと恥ずかしくない?
自分だけそんなこと考えたりなんかしちゃって……。
啓介は全然普通で、てきぱき片付けとかしてて、家や荷物のことが先でさ。それはまあ、正しいとは思うのだけど。
つか、もちろん、オレだってね!
片付けなきゃとは、思ってたからね。うん。
と、誰にともなく、心の中で言い訳みたいに、言いながら。
でも、とまたちょっと、考える。
すぐ抱き合いたかったのは、オレだけ?
むむむ。
いつも結構、がーってくるのに、こういう時に限ってこないってさ。
ちょっとむう、と唇が、膨らんでしまいながら。
「――――……」
石鹸のついた泡泡の手で、自分の後ろに、触れてみる。少しだけ、触れて、中を少し準備しとく――? ……とか。
「……っっっ」
なんだか突然恥ずかしくなって、手を離した。
もーオレってば……!!
何してんのもう!!!
ごしごし手を洗った後、壁に、とん、と手をついて、そのままシャワーを浴びながら考える。
落ち着けオレ。
そうだ、啓介だって、そんないつもすることばっかり、考えてなくて、よかったじゃん。そうだそうだ、そうだよな。うん。
……ていうか、オレだよ、オレ。もー。
欲求不満みたいな。たった二日で、情けない。もー。
少し深呼吸して落ち着いて、もう一度全身にお湯を浴びてからシャワーを止めた。
「――よし」
部屋着を着て、ドライヤーをかけていると、ドアが開いて、啓介が入ってきた。
「クーラーついとるから。涼んどけや」
「あ、うん。ありがと」
ふ、と笑う啓介を見上げる。狭い脱衣所でちょっと近い。そんなことにドキッとしつつ、なんかオレ、やっぱり変かも、なんて思って目を逸らすと。
不意に啓介の手が、オレの頬にかかった。
――え。
ドキ、と心臓が。今度は大きく震えて。
すると、啓介は、ぷに、と頬を潰して、ニッと笑う。
「待ってて」
「え。ぁ、うん。……待って、る……?」
待ってるって言うのも変なの、と思って、語尾が不思議になりながら。
オレは首を傾げながら頷いた。
ふ、と微笑んでから啓介は手を離して、服を脱いだ。
……めっちゃくちゃドキドキするので、オレはドライヤーを終わらせて、じゃね、と脱衣所を後にした。
誤作動みたいと思うほど、ドキドキしてる心臓。胸の上からとんとん、と叩きながら、とりあえずリビングに向かった。
(2025/10/11)
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