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第1話

「ふふふ~ん♪」 ぐつぐつと音をたてる鍋をかき混ぜれば美味しそうな匂いと共に湯気があがる。 今日はナミ様が好きな『カレー』だ! 台所から見える窓を見ると外は薄暗くなっていた。 もうそろそろナミ様が帰ってくる頃かな…… そんな事を考えていると、ガチャッ…とドアが開く音が聞こえ「ただいま」と、しゃがれた渋い声が耳に入ってくる。 カレーを混ぜる手を止め、玄関の方へとパタパタと小走りで向かえば少し疲れた顔をしたナミ様が見える。 「ナミ様~!! お帰りなさい~!」 「ただいま……。ユーゴ君」 ナミ様は俺を見るなり口元を綻ばせ、その表情にキュンキュンしてしまった俺はグンッと見上げる程に大きな体へ興奮を隠しきれずに思わず抱きついてしまう。 俺なんかが飛びついてもビクともしない分厚い胸板へと顔を埋めれば、仕事終わりのナミ様の男らしい香りが鼻をくすぐる。 「ナミ様……いい匂い……」 「そんな訳ないだろ。ただ汗臭いだけだぞ」 ナミ様は目尻と眉を下げて少し困った顔をしながら、俺の耳をモフモフと触ってくる。 ナミ様は帰ってくるといつも俺の耳を撫でてくる。ナミ様曰く、これは帰宅後の『るーてぃーん』というものらしい。 「臭くなんかないです! 俺にとっては最高にいい香りなんですよ」 「はは。そんな事を言うのはユーゴ君くらいだよ」 普段は仏頂面で怖いと言われるナミ様だが、笑うと目尻が垂れくしゃりと笑う顔は凄く可愛い! 俺と暮らし始めてからは笑う事も多くなったせいか、目尻の笑い皺が濃ゆくなってきた気がする。 ナミ様に皺が増えたなんて言うと落ち込むので口には出せないが、俺はその笑い皺が凄く大好きだ。 というか、ナミ様の事は全て大好き! 強くて優しくてカッコよくて……。 最初は憧れだけだった感情も今ではナミ様と一緒にいるだけで胸のドキドキが止まらない。 「ナミ様! 今日はナミ様の大好きなカレーですよ!」 「あぁ。家の前からとてもいい香りがしていたよ」 「今日のカレーは隠し味にこだわってみたので楽しみにしててくださいね!」 「それは楽しみだな」 二人してエヘヘと笑い合いながら過ごすかけがえのない幸せな日々……。 俺がナミ様と出会ったのは半年前の事。 ナミ様は怪我をした俺を助けてくれた命の恩人で……この世界を牛耳っていた魔王を倒した元・転生勇者様だ。

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