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31砂漠のツンデレ
イオ達が王都を出発してから、しばらく経った頃である。
「フリエスは馬じゃないんだね」
「ヴェルがこっちに乗って、イオを護衛しろって」
「え、そうなの?」
「まぁおかけで尻も痛くないし、楽チン楽チン」
「・・・・騎士としてどうかと思う。オレも使用人なのにいいのかなぁ・・・。」
「イオは馬に乗れないだろ?まぁまぁ、細かい事気にしてると疲れるぞ。先は長いんだからさ」
イオが何かを言いかけた時、外からボソッと誰かが喋るのが聞こえた。
「はっ、下賤な淫売女から生まれた庶民上がりのくせに良い御身分だな」
「・・・」
「フリエス?」
「気にするな」
その声は以前イオを蔑んだ騎士だったが、まさか旅に同行していると居心地はいいとは言えなかった。顔はあまり覚えていないが、ガラの悪そうな雰囲気ではあった。
「前に兵舎の食堂や、降臨の神殿でも罵倒されたろ?あいつは、ガラルイ・オーグレイ。オーグレイ伯爵家の子息で、俺とは同期なんだ」
「いい雰囲気の人ではなさそうだね」
「・・・なんか見た目も怖いな」
「まぁ、あの柄悪い顔は生まれつきだしアレでもそれなりに強いんだぜ」
「・・・・」
「ん?」
イオは先ほどガラルイが言った、庶民上がりという言葉が気になった。しかしそこに触れるのも躊躇われるが、フリエスが口を開く。
「俺の母親は、元娼婦なんだ」
「え・・・」
「貴族の親父と結婚して、今は准男爵の妻としてそれなりに楽しくやってるよ。夫婦仲もいいしな」
「フリエスはどうして騎士になったの?」
「母さんを守ってやりたくてな。父さんは優しいから、たまに悪い奴らに騙されそうになるしさ・・・俺が騎士になって守ってやりたいんだ」
「フリエスってチャラいだけかと思ってけど、しっかり者なんだね」
「チャラいは余計だっての!俺はいつでも真面目で紳士な騎士なんだぜ」
「ははは」
出会った頃は軽率そうな感じのフリエスだったが、こうやって会話してみると努力をして騎士になった感じが伝わる。イオはフリエスへの見方が変わっていった。
「真面目で紳士なフリエス・ゾラ。真面目に仕事しろ」
「・・・・了解です。ヴェルジーク副団長」
「・・・・ヴェルジーク」
今度は外からヴェルジークの怒気を含むし喝が聞こえてきた。よくよく考えれば、エオルとケンさんも一緒とはいえ荷馬車の中でイオと一緒のフリエスを羨ましいだけのヴェルジークだろう。
こうして見えない視線にフリエスは怯えながらも、順調に旅は続いた。
道中何事もなく進み、予定より数日早く西大陸へと足を踏み入れた騎士団一行は商業都市イブリースの直前で、魔物の妨害に合っていた。
そしてあろう事か心配して馬車から出てしまったイオは、魔物の罠で砂の渦の中に落っこちてしまったのだ。
「わぁあああああああ!!!た、助けて〜!」
「イオ!縄を掴め!」
「ヴェルジークー!ああっ」
「ど、どうしよう・・・イオがどんどん沈んでくよぉ!」
「イオー!」
「ヴェル、ダメだ!」
ヴェルジークの縄は距離が足りずにイオは砂の中へとついに飲み込まれてしまう。助けに行こうと自身も砂へ飛び込もうとしたヴェルジークを、フリエスが制止する。
「フリエス、離せ!イオを助けなければ!」
「副団長が消えたら隊が乱れるだろ!落ち着け、多分あの砂穴の下は空洞でもしかしたらイオはまだ無事かもしれない。作戦を考えよう」
「もし無事でなかったら、俺は・・・・ッ!」
「副団長」
「・・・ガラルイ」
珍しく取り乱す副団長の姿に騎士団は動揺が走るが、その空気を割くようにガラルイが前に出た。身体にはロープや短剣、救命道具も装備していて身軽な格好をしている。
「俺が行きます」
「策はあるのか?」
「はい」
「・・・わかった。ガラルイ、お前に任せる」
「ありがとうございます。イオは、必ず無事に帰還させます」
「おい、ガラルイ・・・」
いつになく真面目な雰囲気のガラルイが率先して人命救助を申し出た事に、ヴェルジークは彼に望みを託す事を決める。フリエスは少し不安な顔をしてガラルイに声をかけようとしたが、チラリと一瞬目を合わせられただけでガラルイは砂の中へと足を滑らせて行った。
ガラルイが砂の中へと侵入するのを確認すると、ヴェルジークは隊を組み直し商業都市へと向かうのだった。
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一方、砂の下へと落下したイオは下が柔らかい砂の上だった為なんとか無事だった。砂を払いながら周囲を見渡すと、両側は空洞になっていてその先は暗くて見えないが道が続いているようだった。
おそらくどちらかに砂の魔物が潜んでいる可能性はあるが、イオはどちらに行くか迷う。
「どっちに行こうかな・・・」
『我は左だと思う』
「どうして?」
『なんとなく、魔力の波動を感じるのだ』
「なるほど。魔物の魔力とかかなぁ」
『いや、魔物とは異なる波動だ』
「うーん、じゃあ左に行こうか」
ケンさんの魔力探知が反応したらしく、イオは左へ進もうとする。すると先程落ちた穴の上から、何かがサザーと砂と共に落ちて来た。
「な、なに!?魔物!?」
「ゴホッ、ゴホッ・・・おい、俺を魔物扱いするな」
「え、ひ、人?・・・あ、騎士団の人・・えーと」
「ガラルイだ」
「・・・ガラルイさん」
落ちて来たのは、ガラルイだった。
「大丈夫ですか?ガラルイさんも落ちたんですか?」
「この俺がそんな間抜けな事するか。お前を助けに来たんだ」
「えっ!ありがとうございます」
「・・・ふん」
イオの美しい紫の瞳がガラルイを見つめ、素直にお礼を言うとガラルイはそっぽを向いた。
「早く抜け道を探すぞ。魔物が来る前にな」
「はい」
「お前、魔物と戦った事は?」
「ないです」
「その剣は使えるんだろ?」
「これは傷付ける剣じゃないから・・・」
「・・・・そうか。じゃあ足手まといにならないよう着いてくるんだな」
「はい」
魔物との実戦経験もないイオをお荷物と言いながらも、ガラルイは助けに来た。イオはもしかしたら、思ったほど悪い人ではないのかもと気が緩み歩きながらつい色々と話しかけてしまう。
どうやらガラルイは、この西大陸の商業都市イブリース出身の貴族らしく土地勘はあるらしい。個人的な趣向の話は教えてくれないが、フリエスの話題には喰いついてきた。二人は同期だと聞いていたので、やはりライバル心は人一倍あるようだ。
「フリエスってチャラいけど、ちゃんと両親の事大事に思ってていい奴ですよね」
「・・・」
「ヴェルジーク・・様とも仲もいいし、チャラいけど信頼関係があって少し羨ましいな」
「羨ましい?お前、ヴェルジーク副団長と恋人じゃないのか?羨ましいってなんだよ」
「えっ!?こ、恋人・・・な、なんの事ですか」
「バレバレだろ、あんだけ隊の中でもベタベタしてたら。お前、皆から気付かれてないと思ってたのか?お気楽な奴だな」
「えぇ!?・・・・は、恥ずかしい」
「まぁ、お前はフリエス狙いかと思ってたが違っててよかったぜ」
「え?」
ガラルイは後ろを振り向くと、イオを指差し高らかに宣言した。
「言っておくがフリエスは俺のもんだから、手を出すなよ。というかお前ら近すぎなんだよ、馴れ馴れしく肩とか組むな。飯も一緒に食べてるとか羨ましすぎるだろうが!」
「・・・・・・・・」
「帰りの馬車は俺がお前と乗るからな」
「・・・・・・・・」
「おい、聞いてるのか」
「ガラルイさんって、フリエスが好きなんですね」
イオは目が点になりなりながら、もはや俺様ツンデレとしか思えないガラルイをしみじみと見るのだった。
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