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第3話 Body and Soul ①

「最近少し太ったんじゃねーか?」 セックスを終えて後始末をしていると、飯島が煙草を手に尋ねてきた。 松木はゴムを外す手を止め、飯島に振り返った。 「うん……よく分かりましたね。あはは、もしかしてチンコも太くなった?」 「馬鹿。そっちは前よりもっと粗チンになった。」 こういう関係になって半年近く経ったが、飯島の性格は相変わらずで、口を開けば甘い雰囲気をぶち壊す。 セックスの後に煙草を吸う癖もそのままだ。 曰く、気持ちを落ち着けるためらしい。 セックスの後に舞い上がったり情緒不安定になったりするのが嫌なのだという。 松木としては、好きな相手と肌を重ねれば気持ちが高ぶるのは当然のことで、むしろ冷静でいようとするほうがおかしいと思う。 散々甘い啼き声で自分を求めていたくせに、終わった途端別人のように冷ややかに自分を突き放す飯島に、松木は思わずため息をついた。 「ストレス太りかなあ。いつも苛められてるから。」 「飲みすぎだろ。毎週毎週合コンだ何だって。」 「合コンのことは…もう、勘弁してくださいよ。一回だけですよ、途中で切り上げたし。あとは上司との付き合いなの、知ってるくせに。」 「じゃ、断れば。」 「飯島さんみたいにはいきませんよ……。」 ある意味、飯島は賢いのかもしれない。 飯島は、社員旅行や会社の忘年会といった類のものには、一切参加しない。 ごくまれに、誰かと食事にいくこともあるが、それは純粋に何か食べたいものがある場合だけで、決して「付き合い」ではない。 会社の人間も、飯島は『そういう奴』として、はじめから誘おうとはしない。 人付き合いの良い松木は、何かと同僚や上司に誘われてはコミュニケーションの輪を広げてきたが、最近はそれが少々煩わしくなってきた。 飯島のように人付き合いを「無駄なもの」と斬り捨てる気はないが、もう少し恋人との時間を増やしたいのが本音だ。 もっとも当の飯島は自分の気持ちなどいざ知らず、冷たくあしらうだけだ。 「前みたいにフットサルに行けよ。運動不足だろ。」 「だって、休みの日くらい飯島さんと過ごしたい……。」 拗ねたように言ってみる。 松木は数年前に別れた元カノを思い出した。 『もう、なんで休みの度に出かけちゃうの?たまには2人っきりで過ごしたいのに。』 『じゃ、お前も来れば?他の連中だって、彼女が応援に来たりしてるぜ。』 『えー、だって…』 突如目の前が白くなり、松木は我に返った。 「ぶへっ」 咳き込む松木の目の前に、憮然とした飯島の顔があった。 物思いに耽る松木の顔に、煙をふーっと吹きかけたのだ。 「お前今、昔の女と俺のこと比べてただろ。」 勘の鋭さに松木はドキッとする。 もっとも、飯島の勘はいつも肝心なところでずれているのだが。 「え、いや、ちがいますよ、なにか運動しようかな、とか…」 「ふん、とにかく自分のウエイトコントロールの失敗を俺のせいにするなよ。しょうがねえな、ったく。」 飯島は松木の膝に乗り上げ、そのまま松木の上体を押し倒す。 「え、ちょ…」 「運動、したいんだろ。」 飯島は松木の太腿に跨った姿でローションを手に取り、自分の後ろに塗りこめていく。 くちゃくちゃと濡れた音を立てながら指を挿れて自らを押し開き、もう一方の手で松木のペニスをしごき始める。 「あ…ちょっと待って、ゴム……」 ナイトテーブルに慌てて手を伸ばす。 扇情的な姿に、先ほど射精したばかりだというのに、松木のそれは忽ちはちきれんばかりになっていた。 (これも運動と言えば運動か…。) 欲望に流されながら、それでも松木は少し虚しい。 飯島にとって、自分とのセックスはスポーツの代わりに過ぎないのか。 だがそんな思考も、体の中心で滾る熱に熔けてゆく。 飯島はゆっくりと腰を下ろし、松木のペニスをじわじわと呑みこんだ。 やがて全てを収めると、飯島は腰をくねらせた。 半勃ちになった飯島のペニスが揺れる。 引き締まった腹筋が松木の目の前で上下していた。 半開きの口から舌が除き、上唇を舐める。 濡れた瞳が訴えるように松木を見下ろした。 触って欲しいのだ。 自分からやらしく腰を振って仕掛けておきながら、恥らって口に出せないなんて。 飯島はもどかしいのだろう、切なげな表情で激しく腰を振る。 とてつもなくいやらしい光景なのに、涙目で頬を紅潮させ喘ぐ飯島がこの上なく可愛く見える。 松木は思わず頬が緩んだ。 「っ、何だよ、余裕…」 上体を起こし、睨みつける飯島の顔を両手で挟むと、引き寄せて唇を重ねる。 「んっ、ん…」 言葉ごと飯島の息を吸い上げる。 舌を差し込み、獰猛に口腔を犯し、唾液を流し込む。 「ぅ、はぁっ、はぁ…」 唇を開放すると、飯島は息を荒げながらのけ反った。 濡れた唇が糸を引く。 今や飯島の性器もすっかり立ち上がり、先端からも透明な雫が溢れていた。 松木は飯島の昂ぶりを揶揄うようにそっと撫で、先走りを指で掬い取ると、飯島の乳首に塗り込めるように擦り付けた。 「あ…ぁ、あっ」 飯島の体がびくびくと震え、松木をぎゅうっと締め付ける。 こらえきれずに自らの欲望に伸ばしかけた飯島の手を、松木は遮って指を絡めた。 「後ろだけでいって。飯島さん、いけるでしょ。」 飯島は目に涙を浮かべて首を振る。 「…なんで、いじわる……」 涙と汗が飯島の顎を伝い、松木の胸に飛沫となって散った。 腰を振る動作が一層激しさを増す。 待てよ、と松木は思う。 これではちっとも自分の運動になっていない。 さっきから必死で動いているのは、飯島ばかりだ。 (でも、まあいいか。) 快楽で泣いてゆがむ飯島の表情を仰ぎ見ると、松木は少しだけリベンジを果たしたような気分になってうれしいのだった。

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