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 俺の家に着くと、びしょ濡れの俺を心配した真琴は「風呂に入れ」とうるさかった。  待ってるから、という言葉を信じて言われた通りに温まった俺は、部屋で真琴の姿を確認するまで気が気ではなかった。  帰らないで。 お願いだから、帰らないで。  新しい恋人が居る真琴を部屋に連れ込むのはよくない事だと分かっているけれど、上書きされた欲はみるみる膨らんでいく。  何と切り出そうかと悩みながら、ラグに腰掛けた真琴と微妙に距離を取っていた矢先だ。 「……やっぱり怜様だったかぁ」 「え?」 「由宇が待ち合わせにあの公園指定するなんておかしいと思ったんだ。 だってあそこは……おれと怜様の思い出の場所、だし……」 「……バレてたか」  真琴は、俺が呼び出した事を薄々分かっていて来てくれたのだ。  二人の思い出の場所だから、と感動的な言葉まで足されていて、膨らんだ欲を持て余す俺はほんの少し浮ついた。 「おれ言わなきゃいけないことが二つあって。 聞いてくれる?」 「えっ、いや、俺も言いたい事があるんだけど」 「その前におれの話聞いて!」 「……はい」  快活な真琴にはいつも逆らえない。  用意した台詞を失くした俺とは違い、何やら真琴には二つも手札があるらしい。  濡れた髪を拭うフリをして、気紛れにタオルを雑に動かす。 「あのさ、おれのバイト代じゃあんまり助けにならないのも承知の助なんだ。 おれが勝手にしてる事だし、でも迷惑って言われるのは嫌で、……」 「……な、何? 話が見えないよ」 「おれ家庭教師のバイト始めたんだ!」 「うん、……由宇に聞いたよ」 「あっそうなの? じゃあ話が早いや。 来月から、おれのバイト代を怜様に渡そうと思ってます!」 「えっ!? なんで!?」  身構えた手札の一つ、それは藪から棒にも程があった。  何がどうなってそういう事態になったのか見当もつかない。  日々真琴の言動に振り回されてきた俺だけれど、まるで予期していなかった発言で現在、混乱のピークを迎えた。 「怜様の家の事情はおれも理解してるから。 生活が苦しくて怜様はバイト始めようって思ったんでしょ? なんでおれを頼ってくれないんだろってムカついちゃって」 「そういう理由じゃないんだけど……」 「言いにくいのは分かるよ、うん」 「いや本当に違うんだよ」  なるほど、と真琴の突飛な発想に合点がいき、俺は生真面目に説明をした。  母子家庭ではあるが生活が困窮するほどは困っていないし、夏休みに暇を持て余すくらいならばという考えに基づいてであった事を、簡単明瞭に。  すると真琴は、なぜかとてもホッとしていた。  彼らしくない気難しい顔が、見るからに安堵に満ちる。 「なーんだ、そうだったんだ! でもおれ、怜様が誰かと二人っきりになるっていうのも嫌で、それを阻止しようとした」 「あぁ……気持ちは分かる」 「あともう一つ。 おれ今日、彼氏連れて来たんだ」 「はっ!?」

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