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「そうそう正解。
そんな感じで解くと、こっちもいけるよ」
「ぁ、はいっ」
誰もいない、夏休みの教室。
机を前後でくっつけて、あの日から勉強会が始まっていた。
「うん、できたじゃんさっちゃん。その調子ーー」
「じゃぁ次はこっちね」と誘導されるまま、僕はスルスルと問題を解いてしまってる。
先輩、教えるの上手すぎ………
僕勉強苦手なのになぁ。
こんな僕のこと見たら、絶対あいつら驚くだろうな。
ってか吉良先輩と色んなとこ行って勉強会もしてる時点でびっくりさせるか。
「うん。今日はこの辺にする? もう夕方だ」
「わ、本当だ」
いつも暗くなる前に切り上げて、教材を片付ける。
「今日も有難うございました!先輩のお陰で何とか終わりそう!!」
「良かった。何か俺たちの夏休みの方向性ズレちゃったけど、まぁ良いことだね」
「あ、そうだった……」
「え、嘘でしょ忘れてたの?
夏休みもう後ちょっとで終わるよ?」
「あはは〜」
そうだった、先輩の事笑わせなきゃいけないんだった。
一緒に過ごすことが楽しすぎてすっかり忘れてしまっていた。
「天然って極めたらここまでくるものなの?」
「ん?」
「んーんなんでも。まぁさっちゃんがいいならいいけど」
「んーそうですね……なんか先輩と過ごすのが楽しすぎちゃって、どうでもよくなっちゃってました」
「わぁお、さっちゃん素直。そんなんでいいの? もっとこわーい罰ゲームが待ってるんでしょ?」
「あははっ、まぁどうにかなりますって!」
「ーー葵 」
「っ!」
校門から出た瞬間、突然かけられた声にビクリと先輩の体が震えた。
「クスッ、お友だちと過ごしてたの? 楽しそうじゃない」
「なんで……ここ、に」
びっくりするくらい綺麗な女の人。心なしか先輩と少し似ているような気が……
僕の顔を覗き込むように見られて、先輩にバッと背中へ隠される。
「こいつは関係ないだろ」
「あら、友達思いなのね葵。夏休み久しぶりに帰ってきた私よりそっちの方が大事なの?
ーー〝死神〟のクセに」
「っ、」
(しに…がみ……?)
チラリと背中から女性の顔をみると、嫌に歪んだ顔をして笑っていた。
「本当、いい加減私たちの前から消えてくれないかしら。同じ家にいるだけで腹がたつわ」
「っ!? そんな言い方って、ーーむぐっ!」
反論しようとした口を、先輩の手で塞がれる。
「いいから、もうどっか行って。その話は俺が学校卒業したら嫌という程あんたじゃなく叔父さんから聞くから」
「っ、あんたは、いつもそうやって澄まし顔で終わらそうとして……!」
「そういうのも全部。俺が一人のときに言ってくれない? ちょっと我慢するくらいもできないの?」
「ーーっ!」
ギリッ!と先輩を睨みつけたまま、女の人は去って行った。
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