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『悪魔と人間が契る……つまり人間が悪魔となんらかの約束をするということだが、それはあくまで仮の契約なのだ。私の能力の範囲でしか干渉できない一時的なもの』 「一時的?」 『うむ。本契約は、人間がその魂の全てを対価に悪魔とかわす一生に一度の契約。つまり、悪魔に魂の全てを捧げるということだよ』  ニューイはトン、と自分の胸に触れた。人間なら心臓がある位置だ。  そこに魂とやらの中心があるらしい。 『捧げた魂は悪魔の所有物になる。本来は悪魔が人間の望みを叶える対価に貰うモノで、人間それぞれの味、香り、色、カタチなど、個性がある。悪魔にとっては一番のゴチソウで、食事だ。悪魔の能力がグッと上がる』 「ふぅん。じゃあ、お前さんは食いそびれた恋人の魂を喰らいにきたのか」 『! とんでもないっ!』 「へ?」  話の流れからなんとなく予想するが、ニューイはブンブンと首を横に振った。  それはおかしい。人間的には、メシなんて食うわけない! と同義の反応だろう。  九蔵が先を促すと、ニューイは大きな体を縮こまらせてショボーンと落ち込んだ。 『魂を好きにする権利を貰うだけで、食べなければならないわけじゃない。本契約した魂は、食べなければ私が朽ちるまで私の所有物としてともにある』 「ん」 『つまり、恋しい人間と結ぶ本契約は〝婚姻〟なのだよ〜……!』 「おっと」  説明とともに頭をポコーンと飛ばしたニューイは、自己嫌悪にうねり始めた。  ──曰く、婚姻を結ばなければ何れ死した魂は転生してしまうらしい。  ニューイは前世の九蔵が転生しないように結婚したかったのだが、うっかり本契約を結び忘れたという。  結果、死んでしまった前世の九蔵は今の九蔵に転生したということだ。 『だけど私は諦めなかったとも。魂の輝きを目印に人間世界中から転生した九蔵を見つけ、改めて本契約……今度はちゃんと、結婚しようとやってきたのだ。そのぐらい、素晴らしい輝きを持つ魂だったのでな。ひ、一目惚れ、なのだぞ?』  そう締めくくり、過去回想の自己嫌悪から復活したニューイは、ホワホワと嬉しげに花を飛ばした。  角あり頭蓋骨を少し首から浮かばせているのは、嬉しいだとか、そういう感情か。  こちとら嬉しいと首が浮く骸骨を見ているほうがドキッとする。ホラー的な感情だ。  当然だが、ホラージャンルの骸骨に照れながら一目惚れと言われても九蔵はキュンとしなかった。  しかも魂きっかけだと?  中身や外見じゃないなら、ちっともピンとこないじゃないか。  聞けば聞くほどロマンスもへったくれもない。にわかに信じ難い案件である。 「どんだけコテコテなんだよ……胃もたれすんだろ……歩くキャラ設定の宝庫か……」 『フフフ。こう、九蔵の魂は私の好みドンピシャなのだ……! 色から輝きから形から成り立ちから香りから味からなにからなにまでこう、フフフ』 「人の話はちゃんと聞きなさい」 『誇ってよいぞっ。何十年でも追いかける価値がある……っ!』 「はぁ……」  脳内お花畑な悪魔らしからぬ悪魔を前に、九蔵のツッコミなど無意味だった。  ため息を吐く。  追い出すことはおろか、ツッコむことも諦めた瞬間だ。

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