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「ニューイ、ワンモワセ」 『? フラグが勃起、ビンビンだね』  魔が差して誘うと、ニューイは疑うことなく首を傾げて繰り返した。  澄央は耳に手を当ててすませ、上品にまぶたを閉じる。  九蔵という保護者がいない澄央は下ネタを自重しなかった。悪魔だろうがセクハラをする。  九蔵がいる時は頼りになる澄央なので九蔵は気づいていないが、澄央はなかなかにクセのある男である。 『フラグがビンビンな九蔵が、事件に巻き込まれているのかい……?』  そしてニューイも、九蔵がいなければ無知無警戒に唆されるミラクル悪魔回路の持ち主だった。  この場には手遅れしかいない。  ビンビンイコール勃起と新たに刻まれた現代語を駆使するニューイが心配げに尋ねると、澄央は重大なことを注げるように、声を潜めて囁いた。 「もし、俺というダチがいながら、ココさんに二人でお出かけする俺の知らない相手がいるなら……それは大事件スよ」 『大事件なのかい? 九蔵が友達と遊ぶのはいいことだ』 「じゃあまたココさんが見知らぬイケメンとイチャイチャしてたらどうするんスか」 『いけないッ! 大事件だッ!』 「そうでしょうとも」  澄央は神妙に頷く。銀髪イケメンプリンスこと桜庭に敵対心を抱いているニューイは、手のひらを返して慌てふためいた。  許せそうにない。  なぜそんなに酷いことが密かに行われているのだ。許せそうにない。  ニューイの脳内に、桜庭が九蔵の腰を抱いてベッドに誘い、魂に触れようかと押し倒しているビジョンがホワホワと浮かぶ。 『銀髪イケメンお代官様、いけません……俺にはニューイという妻が……っ』 『ニヤニヤ。いいじゃないか。どうせその悪魔くんは君の魂が好きなんだろう? ニヤニヤ。九蔵の人格には興味ないはず……』 『あ〜れ〜っ』 『九蔵がしたいようにすればいい。悪魔くんは文句を言えないはずさ。ニーヤニヤニヤ』 『いやんっ、ばかんっ、そこはだめぇっ』 『あぁ〜〜……ッ!』  ──そそそっそんなことダメに決まっているじゃないか! 文句しかないのだよ!  昼ドラと時代劇がごちゃ混ぜになったカオス劇場に、ニューイは頭を抱えた。  確かにニューイはイチルを愛しイチルの魂を求めたが、九蔵の人格は九蔵として見ている。それは九蔵が教えてくれたことだ。  イチルの魂と契る目的はありながらも、ニューイはきちんと九蔵は九蔵として毎日接している。  しかしそう考えると、ニューイに九蔵の自由を止める権利などないだろう。 (いやでも、どうしてだ……凄く嫌だぞ……)  ただ許せそうにない。  怒涛の勢いで脳内桜庭の言い分を否定しながら、ニューイは自分でも定まらない思考が走り始めた。 『はっ…あ……っ』 『ニヤリ……ほらご覧九蔵……俺はイケメンだぞ……? 気持ちいいだろう……?』 『あぁん……顔がいい……!』 「──く、九蔵ぉぉぉぉッ!」 「おっと」  ガバッ! と立ち上がったニューイは悪魔の姿から人間の姿に戻り、涙ながらに咆哮を上げた。  自分の妄想に過ぎないが、もし万が一そんなことになっているのならと思うとニューイは我慢ならないのだ。こうしちゃいられない! 「事件は現場で起きている……! 行こう、真木茄 澄央!」 「合点承知」  待ってましたとばかりに親指を立てる澄央と共に、ニューイは九蔵の匂いを辿って尾行を始めるのであった。

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