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「九蔵は俺の容姿が気に食わないのか?」 「どこからどう見てもいい男だと思っていますが」 「うーん。じゃあ、性格? 俺はめったに怒らないと思うよ。九蔵のやることなすこと全部イイと思う。浮気は嫌だけど束縛しないし、迂闊なことをしてモテたって責めたりしない。割と寛大なほうだ」 「あー……まあ、最強だろうけどさ……」 「家事だって一通り熟せるから、九蔵はなにもしなくていい。九蔵の趣味も一緒に楽しめるよ。今日ずっと見ていて、たぶん、九蔵は俺と一緒にいて居心地が悪いように思わないと思うけど」 「んー……それは正解だけどな……」  好意だけではバッサリ斬られたからだろうか。自分のポテンシャルをアピールし始めた桜庭だが、九蔵の返事は顔以外煮え切らないものだ。顔以外。顔は全九蔵さんがイイと言っている。  けれど九蔵が桜庭の話を聞いていてチラチラと思い出すのは、やはりニューイであった。   子ども並みに喜怒哀楽が激しい。  すぐ泣き、すぐ驚き、すぐ喜び、すぐに拗ねるニューイ。  惚れた弱みというものにより九蔵のやることなすことに文句を言わないよう、気をつけているだけだ。  本当は言いたいことがいろいろとあるのはよくわかっている。骸骨化して丸くなるのでわかりやすい。  家事は言わずもがな、だ。九蔵の趣味に理解があるが、一緒には楽しめない。   どう考えても、ニューイより桜庭のほうがいいはず。  それが一目瞭然でも、九蔵は桜庭の言うことにあまり魅力を感じなかった。 「……こんなことは言いたくないけれども」 「うん?」  それは桜庭にも伝わっているようで、桜庭は人差し指を立て、とっておきの必殺技を出すべく更にズズイと九蔵に詰め寄る。  どこかの草葉がまたもガサガサと揺れるが、気のせいだ。 「俺は、会社を一つ経営している社長だ」 「へぇ。凄いな」 「……。もし俺と付き合って俺たちがうまくいけば、将来九蔵の欲しいものはおそらくたいてい買ってあげられるよ」 「は? ……そらまあ物欲はゴリゴリあるけど、人の金で大きな買い物しようと思わねぇよ」 「……。だけどいい家に住めるし、仕事をしなくてよくなるぞ?」 「掃除機かけるのしんどい。仕事してねーと落ち着かん」 「家政婦さんを雇えばいいじゃないか」 「自分の住処を他人に掃除されんのはな……同居人にですら絶対触んなって言ってるとこあるしな……」 「…………」  困り顔の九蔵がそう言うと、どこかの草葉で誇らしげな「パソコンが乗っているテーブルのあたりは触ってはいけないのだ」という声が聞こえる。もちろん気のせいだ。  桜庭は静かに肩を落とし、ガックリと俯いた。申し訳ない気がするが、本当のことなのだから仕方がない。 「なんか、ごめん」 「……構わないよ……」  全然構っている。自信喪失だ。  モテモテ街道を歩んできただろう桜庭の人生で、九蔵のような相手はいなかったのだろう。  九蔵は少し迷って、桜庭の肩にポン、と手を置いた。  俯いていた桜庭が顔を上げる。 「あんたはスゲーよ。そんだけいい男で、性格も良くて、スゲー努力したんだろうなって思う。俺は自分と真逆のアンタを尊敬してんだ」 「尊敬、か。でも付き合ってはくれないし、九蔵は俺を好きじゃないんだろう?」 「そうだな。ワガママだとか、卑屈だとか、たぶんそんなのもあるだろうけど、まあ性格だから無理ってか……あー……」  桜庭の肩から手を離し、髪をクシャクシャとかき混ぜた。  モテない九蔵なので、告白を断る、というのはいかんせん不慣れで心苦しい。  だけどちゃんと理由を説明してハッキリ断らなければ失礼だ。

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