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「九蔵は優しいね。ずっとずっと……キミは私に優しいよ」
キミとは、どちらのことなのやら。
相変わらず、妬けてしまう。
「今日、九蔵が悪魔な私を少し知ってしまったかもしれないと思うと、とても落ち着かなかったのだよ」
苦笑い気味にそう言われた。
怖がられやしないかと思ったのだろう。
「ま、悪魔とかもともと、ちとおっかねーよ……でも全然、お前だからいい……かな」
「むっ……困ったぞ……九蔵があんまりかわいいことを言うので、このまましっぽを絡みつけたくてたまらない……むむむ……」
「それされっと俺が困るってか、あー……じゃあ、電気消して」
「うむ」
伸縮自在の長いしっぽを伸ばして、ニューイは電灯のヒモをカチカチッ、と引っ張った。明るかった室内が、夜に染まる。
ほとんど一色の世界になったので、九蔵ムシ化した男たちはモゾモゾとベッドを這い、狭いベッドへ横になった。
ニューイは自然な動作で九蔵を腕の中に閉じ込め、添える程度に抱き寄せる。
「おやすみなのだよ、九蔵」
甘いおやすみ。強くはない抱擁。
昨日までは控えめな力加減に気遣いを感じ、夜毎胸が高鳴ったが……想いを認めた今夜は、少し物足りない。
「…………ニューイ」
「っ……ん?」
九蔵はコツン、とニューイの胸に自分から額をあてがい、めいっぱいの勇気で持って距離を詰めた。
恥ずかしい。キスの一つでも、いいや、抱きしめ返すくらいはかましてやればいいものを、頭突きと大差ないことしか自分にはできないらしい。
「なんだい?」
「ん、や……別に」
大の大人の男のくせに、まともに恋もしたことがないツケが回ってくる。
お前らしくもないと、笑われたらどうしよう。そもそも恥ずかしくて死にそうだ。それに、本当は嫌がられていたら自害する。
ニューイはそんなことするはずない。だから好きになったのに、恋は人を勝手に乙女にしては、勝手に稀代の臆病者にもする。
(心臓……いってぇ……)
「……九蔵」
ドッドッ、とうるさく鼓動する胸がパンクしそうな九蔵を、ニューイの穏やかな声が呼んだ。
「私は目を閉じるから、九蔵は少し顔を上げてもらえるかい?」
「え……あぁ……っと、こう、か?」
ニューイと目が合うと照れる九蔵に配慮した要望。
意味はわからないが素直に顔を上げると、その瞬間にニューイの顔がぐっと近づけられ、九蔵の額にチュ、と唇が落とされた。
「っへ……」
「これはな、悪魔がかける本物の、いい夢が見られるおまじないなのだ」
驚く間もなくそんな言葉と共にいつもより強く抱きしめられ、ニューイの手が九蔵の背をあやすようになでた。
まるで子ども扱いだ。けれどそれを咎められるほど今の九蔵には余裕がない。
震える体を押さえつけ、必死に平静を装って「それは、ありがとさん」と軽く返す。
そんな九蔵へ、ニューイは花びらが開くように柔らかな笑みを解けさせると、目を閉じたままユルリと笑った。
「だから、安心しておやすみ……明日も明後日もキミの魂が続く限り、私はキミが愛しいよ」
それはいつか、夢の中で聞いたセリフ。
イチルに嫉妬した、九蔵の夢だ。
「……おやすみ、ニューイ……」
どうにかいつも通りの挨拶を交した九蔵は、きつく目を閉じ、奥歯を噛み締める。
(末期すぎて、頭おかしいよな……)
──夢の中でも、会いてぇとか。
二重にかければもしかして会えるかもと魔が差し、九蔵は密かに、ニューイの胸にキスをした。
第二話 了
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