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「いや……あんな肉体美悪魔の前で俺が全裸になるとか死ぬだろ……」
「死なねース。死なせねース」
「でも無理だろ俺貧相なんだよ死ぬしかねぇよ……漫画とかでこう『体が目当てなんでしょ!』とか言うキャラはなんでそんな自分の体に自信があんだよ……その自信を俺にくれよ……」
「ココさんの魅力ポイントは項と鎖骨ス。大丈夫、俺はイケるス」
「お前ほんといいやつだなぁ……!」
グッ、と親指を立てる澄央のセクハラを九蔵は素直に喜ぶ。この調子でニューイも親指を立ててくれればいいのだが。
そう考えたところで、九蔵はしおしおと萎れながらゲームをセーブし、バックパックにしまった。
「? なんで萎れるんスか」
澄央は不思議そうにこちらを見つめながら、サラダうどんの皿にスタミナ丼を乗せてくる。
九蔵を太らせたいようだ。食欲はなくとも気持ちはありがたいので、もそもそとスタミナ丼を食べつつ溜息を吐く。
「ニューイが若干……変なんだよ」
「ニューイはいつも変スね」
「もっと変なんだよ」
澄央からあれ以上どう変になるんだとばかりの視線を感じるが、事実だった。
九蔵の様子がおかしいなら理解できる。ニューイがいると意識してしまって落ち着きがない。
しかしおかしいのは確かにニューイなのだ。
「別に冷たいわけじゃねぇんだよ……ただなんでか俺のことをじっと見てきたりして、聞いてもなんでもないって言うし……」
「ほう」
「俺の好きな色とか身長とかあれそれ、妙に質問ばっかりしてくるし……」
「ほうほう」
「そういうベクトルで俺を堕落させたいのかって思ったけど、それにしては二人っきりになるとソワソワして距離取るんだよな……」
「ほうほうほーう」
スタミナ丼を食べ終えた澄央が冷えたお茶を片手に、評論家のような顔で頷く。
恋愛若葉マークの九蔵には、ニューイの奇行がよそよそしいように感じた。押し倒して意識させよう作戦を実行できないのは、そういった不安もある。
「今日バイト終わってから晩飯をここで食ってるのだって……ニューイが急に用事あるとか言い出したからだしよー……」
義務感的に最後のうどんを啜り終えて、九蔵はガックリと肩を落とす。
実はニューイにスマホを買い与えたことで、ニューイの一人外出が解禁されたのだ。九蔵をストーカーしていたあの日、これといって問題がなかったのが大きい。
実績による信頼の解禁である。
行き先と帰る時間は連絡必須。知らない人にはついていかない。セールスとは契約しない。自分のお金でも無駄遣いしない。なにかあったらすぐに電話をすること。
それを守れば、九蔵は束縛しない。まあ恋人でもないので束縛できないだけだが。
それに、ニューイが会いに行く相手なんてズーズィくらいだ。今日だってズーズィと晩ご飯を食べてくると言っていた。悪魔同士、翼を伸ばしてしたい話もあるだろう。
だからまぁ別に、拗ねてなんかない。
気の置けない人と食事をするのが落ち着くと知ってしまったので一人メシが寂しくなり澄央のディナーにあやかっているわけでもない。本当だ。
全然料理本を見たりしていないし、夕飯を一緒に食べてもらう口実なんて探していないに決まっている。
「普通に『晩ご飯はなるべく一緒に食べたい』って言えばいいじゃないスか」
「ナス、それができないから俺なんだ」
「把握。俺はいつでもウェルカムスよ、ココさん」
「ナス……っ!」
「さぁ一緒にヤバ恋のヤスアキたんイベ走りましょ」
「普通に『イベント用の特攻キャラサポ枠にセットしてくれ』って言え」
「だってココさん毎回完凸フル解済みなんスもん」
「箱推しの性です。ま、今回ランイベじゃねーから余裕だよ」
──現実逃避は頼れるフレンドと。
九蔵と澄央は揃ってスマホを取り出し、とりあえず画面の向こうの推しを落とすことに尽力するのであった。
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