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「な〜? ボクがナイスアシストしたあと、ニュっちとヤッた〜?」  出た。この話題。  来客のズーズィを無視していたのはズーズィが嫌なわけじゃなくて、切り出されるだろうこの話が嫌で知らんぷりしただけなのだ。  九蔵は脳内でバタンと倒れつつ、素知らぬ顔で「まぁな」とかわす。 「ヤれなかったけど、一応誘惑したしいつもよりは触らせましたよ」 「うっそマジで? ニュっち有り得ねぇ! 性欲死んでんの? まぁ食事目的以外は昔から奥手だったからしゃぁないか〜」  用意していた答えを言うと、ズーズィはつまらなさそうに唇を尖らせた。 (んん、昔から奥手、か)  そう聞くとニューイの過去が気になった。うじうじしてばかりでは進展しない。  ニューイのことをなにも知らなかったせいで行き当たりばったりな悩みが増えるのだから、自分から情報収集せねば。……イチルのことも。 「ズーズィはイチルのこと知ってんのか?」 「んえ? 当たり前じゃん。悪魔の世界に人間が迷い込むとか滅多にねーからなーん」 「は? 迷い込む?」 「そー」  思い立ったがすぐ行動、と尋ねると、ズーズィは嬉々として昔話を語り始めた。  ──ずっとずっと昔。  ある日、人間の少女が悪魔の世界に迷い込んだ。  迷い込んだ少女はあわや死にかけていたところをたまたま通りすがった悪魔に助けられ、屋敷にかくまってもらうことになったらしい。  悪魔はほとんどひとりぼっちで暮らしていたので、自分を怖がらない人間の少女との暮らしをたいそう気に入った。  大親友で優しく素晴らしい天才的な変身能力を持つ完璧な友人もほったらかして、少女に夢中になった。とんでもない悪事だ。  しかしエクセレントな友人が少女を追い出すべく様子を見に行くと、少女は悪魔を大切に愛してくれていた。そして悪魔もまた、少女を大切に愛していた。  どうしてそうなったのかはわからない。自然に惹かれ合ったのか、なにかきっかけがあったのか、見ていない友人にはわからない。  けれどあんなに嬉しそうに笑う悪魔を久しぶりに見た友人は、仕方なく、少女との暮らしを黙認した。  友人も悪魔だが、鬼ではない。  幼馴染みにくらいは優しくする。  悪魔は少女に呪いをかけた。  恋人となった少女とずっと一緒にいられるよう、老いない呪いをかけた。悪魔はそういう力の強い悪魔である。  ただ少女の容姿が変わらないことで、悪魔は忘れてしまっていたのだ。  見た目が変わらずとも、人間は必ず、悪魔より早く死ぬということを。  悪魔は泣いて、泣いて、泣き続けた。  初めて誰かを愛した。  初めて愛した誰かを失った。  愛することの幸福を知って、求めずにはいられない。  幸福を失う悲劇を知って、もう二度と離すものかと求めずにはいられない。  泣き続けた悪魔──ニューイが次に顔を上げた時、悪魔は悪魔の世界から、少女──イチルの魂を探して、広大な人間の世界を日々血眼に見つめ続けたのだ。 「そんで見つけたのがクーにゃんでーす」 「語り部が軽すぎます」  昔話が終わり、九蔵は自分の腹に抱き着くズーズィの頭を軽くコツンと打った。  胸が締めつけられる切ないお話だったのに、ズーズィの話し方とズーズィ自身が軽いので一瞬でシリアスムードが霧散したじゃないか。ふう、と息を吐く。 「そりゃー軽くもなるでしょーがー。ニュっちにとっては大事なイチルとの思い出かもしんないケド、ボクにとっちゃずっと前の、更に何十年間って話じゃん」 「それだけニューイはイチルが大切だったんだろ」 「まーねィ? 刷り込みだけど」  そんな九蔵心を知りもしないズーズィは、九蔵の腹にグリグリと額を擦りつけながらどうでも良さそうに話を続けた。

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