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「だってお前、めちゃくちゃ機械苦手だろ。洗濯機だって掃除機だって未だに仕組みをよくわかってねーし」  目は合わせられない。  腕を組んで、呆れた顔を作る。  本当は不安だ。  それに、嫉妬している。  頭の中がごちゃごちゃだ。 「しかもこれ、俺の知ってるゲームの面より何倍も難しく作ってあんだぜ?」 『わか、わかっているが……っ』 「今日は、たぶん無理だよ」  初めてゲームをしたニューイには、絶対に不可能だ。九蔵には言いきれた。  たぶんを付け足したのは、ニューイを傷つけたくないから。ハッキリ言い切ると、骸骨の体が崩壊しかねない。  それは言い訳だった。  本心では、イチルを透かしたプロポーズをされたくないだけ。  今の自分を見てほしいだけ。 「もっと修行してからチャレンジしようぜ。な? 今日はとりあえず、ナスとズーズィが来たら任せてみよう」 『っ私でなければ、ダメなのだ!』  九蔵がそう言うと、ニューイはわなわなと震え、勢いよく首を横に振った。 『九蔵、残りはまだあるじゃないかっ。まだ終わっていない。見てておくれ? 私は必ずクリアするぞっ』  コントローラーを離す。  代わりに両手を合わせて祈るニューイは、涙目になっているくせにちっとも諦めていない。  ズキ、と胸が痛くなった。  やめてくれ。嫉妬したのだ。これは八つ当たりなのだ。臆病風なのだ。当てつけなのだ。嫌がらせなのだ。汚らしい、嫌味なのだ。  そんなに綺麗な心で、自分ができない輝き方を、見せつけないでくれ。 「け、けど……残り一体じゃねぇか」  誰がどう見たって無理だろう、と、九蔵はやっとのことで釘を刺した。 『つまり、終わりじゃない。あと一度、チャレンジできるということだろうっ?』  それでもニューイは熱意を冷まさず、一生懸命に九蔵を説得する。  早く諦めろ。  この願いがニューイに向けてなのか自分に向けてなのか、わからない。 『ダメなのだ……このままじゃ、いけないんだよ……私は頑張るから、私にもう一度キミを手にするチャンスをくれ……!』 「っ……」  けれどニューイがそう言うから、増して増して、ニューイのことが好きになる。  九蔵の恋心や葛藤を知らないニューイはただプロポーズのチャンスが欲しいだけだが、九蔵にとってそれは、嫉妬と切望に焼かれる日々への招待状だ。  なのに、好きになる。  好きになると、辛い。  好きで好きで、苦しい。  だけど、好きになる。  いっそ記憶があれば、イチルのまま運命的な再会をできたのに。いいや、それは嫌だ。ではニューイに記憶がなければ。いいや、いいや。出会えないのは嫌だ。  だって、好きだから。  ──あぁ、そうか。  いくら出会いが、きっかけが、相手が、ファンタジックなラブロマンスでも。  現実の恋は、醜い我欲でしかないのか。 『今日がダメなら、また何度でもっ……』 「……嫌だ」 『あっ……!?』  チャンスなんか、あげない。  九蔵はこんがらがった頭を急速に冷やし、ニューイの手放したコントローラーを取り上げた。

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