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「キューヌ、お前がいなければ計画に支障が出るじゃないかっ」
「やぁよ。計画なんてどうでもいいわ。アタシはサカキをアタシのモノにするの」
「今更なにを言っているんだっ。ワガママ言うんじゃないっ」
「あらやだ、トラブルに弱いオトコは嫌われるわよ?」
「幼馴染みより人間なのか……!?」
「ンフ~? 奔放の悪魔であるアタシが幼馴染みのコグマちゃんに縛られるわけないでしょ? ね、サカキ」
キューヌは語尾にハートが乱舞している甘い猫撫で声で囁き、時の止まった榊をウフフと見つめた。
ドゥレドがガーン! とショックを受けて震えている姿なんてまるで目に入っていないらしい。
キューヌの瞳に映るピンクのハートは、恋する乙女のそれである。正しく恋は盲目だ。
そんなキューヌに声をかけようと手を伸ばしては引っ込める哀れなドゥレドに、九蔵は幼馴染みだという二人の上下関係を察した。
ズーズィとニューイとはまた違う関係である。それとこれとは別なので、今のうちに逃げてやろうか。
「くっ……もういいっ。作戦変更だっ」
「っう」
キューヌの説得を諦めたドゥレドに両肩を掴まれ、あわよくば逃げようとした九蔵の額にドゥレドの額がゴツッと押しつけられた。
九蔵は目を剥く。
キューヌは呑気に「うふふ。後始末くらいはしてあげるわぁ~」と片手をフリフリと振っているだけで、ドゥレドの行動の意図は読み取れない。
「ちょっ……!」
「*、******」
「──ッ!?」
そしてなにがなんだかわからないまま聞き取れない不思議な音声で呪いを吐き出され──口の中からなにかの塊をズルンッと引き抜かれた。
なにが起こったか。
すぐにはわからなかった。いや、なにか起こったのか? それすらわからない。
呆気にとられた九蔵の前からドゥレドが煙のように姿を消し、一時的に場が静まり返る。数秒に満たないほんの一瞬。
灰色に染まったうまい屋のレジ横でポカンとする九蔵を見て、テーブルに肘をつくキューヌがうっそりと笑った。
「いーい? ツマミちゃん」
ツマミちゃん。
全く関連性のないあだ名である。
夕菜がつけたココちゃんのほうがまだマシだ。美女はみんな九蔵にありがたくないあだ名をつけるらしい。
九蔵が渋い顔で口を開くが、キューヌは文句を言う時間すら与えずにさっさと話を進める。
「アタシはツマミちゃんの味方じゃあないわ。だけどサカキがビックリすると困るから、空間凍結を解除する前に説明をしてあげるし、ツマミちゃんを攻撃しないわよ」
「……? ……ッ」
「ウフフ、そうね、そうね。無駄吠えしないコはスキよ」
色めかしく笑うキューヌを前に、九蔵はバッと口元を手で覆った。
そんな、まさか。信じられない。
あるべきものが、あるべきあれが、ないなんて。
「ツマミちゃんの声──……舌ごとドゥレドが引っこ抜いちゃった」
「〜〜〜〜っ!?」
てへっ、とお茶目にウインクをするボンッキュッボンッの美女を見つめて、声のない悲鳴が灰色のうまい屋に響き渡った。
それからひとしきり一人で絶望し一人で立ち直った九蔵は、なんとか一人で思考回路をまとめた。
声を奪うために舌ごと引っこ抜くなんて、なんとしてもドゥレドをとっちめてやりたい。
困る九蔵を心底ウフウフと面白おかしく楽しむキューヌに、空間凍結とやらを解除してもらう。
キューヌは凍結している間に榊のスマホを奪ってさり気なく連絡先および個人情報をゲットしていたが、九蔵の知らない話だ。
時間が動き始めてから、まずは榊にそれっぽい説明をした──が。
真顔で「私の納得のいく真実を説明するか今すぐクビになるか選べ」と言われ、熟考の末白状することになってしまった。
これはもう仕方ないと思う。
あの榊を納得させる客一人と従業員の舌と声が消えた理由の説明なんて、言い訳ワールドチャンピオンが逆立ちしたって出てこないはずだ。
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