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◇ ◇ ◇
ドゥレドに舌と声を奪われたあの日から、一週間。
ニューイとのんびり過ごし澄央やズーズィに茶化され、九蔵は心身ともにじっくり休んで立て込んでいた感情やら作業やらをリセットできた。
あのあと部屋に戻って、二人で家族会議をしたのだ。
もうグルグルと自分反省会は道でやめにしたので必要以上に自虐せず、前向きに話をした。
声と筆談で少しずつ。
テンポの悪いスローな会話だったが、久しぶりにお互いのバカなところを再確認し合ったと思う。
ニューイは語った。
自分が悪魔だから、他の悪魔がやってくる。悪魔だから迷惑をかける。
九蔵を自由にさせたいのに離れてやることはできないから、きちんと守る覚悟で恋人の座にしがみついたのに、自分はいつも役立たず。ポンコツ。
クリスマスパーティーの時の話まで持ち出して、ニューイはいかに自分が九蔵を危険に晒しているのかをプレゼンする。
『私はコトが起こってからしか動けない。いくらキミが気にしないと言っても、やっぱり私は守りたいんだ。九蔵を愛しているから』
それができないと情けない、と。
『情けない私を王子様と言ってくれて、ありがとう』
眉は困っていたものの頬を桃色にして笑うニューイに、九蔵は声を出せないかわりに、ややあってからガシガシとニューイの金の頭をなでまわした。
そんなことを考えていたなんて、ずっと知らなかった。
ニューイが後手に回るのは当たり前だ。
九蔵の自由を奪わないから、九蔵の意思を尊重しているから、当たり前だ。
ズーズィが桜庭に擬態して近づいた時もクリスマスパーティーでも、九蔵がピンチになった時には必ず飛んできたくせに。
たった一度、それも九蔵を思って躊躇しただけで大罪を犯したように落ち込むニューイが、王子様以外のなんだと言うのだろう。
九蔵はそれを丁寧に文字にし、最後に「大事にしてくれてありがとう」と添えてニューイの頭を抱きしめた。
九蔵も語った。
たぶん、おそらく、もしかして。……いや、確かに、自分はニューイの愛情に慣れていたのだ。
ニューイがたくさん自分を想い惜しみなく愛してくれていたのに、自分は今に満足していて、なにも努力をしなかった。
ゲームと違って現実は時が流れること。
この幸せな日々を継続するためにきちんと相手を見ていなければならないこと。相手に心があること。
自由と自分勝手は紙一重だ。
〝自分から愛情表現するのは苦手だからできる時にできるだけ〟が自由だとすると、自分勝手は〝苦手だから受け取るだけ受け取って自分はやらない〟ことだろう。
自分は自分勝手だった。
気づいてから慌てて、焦っていたところで悪魔に奪われて迷惑をかけたから、自分が大嫌いだったのだ。
『でもお前が泣いて謝った時、俺は自分が嫌いより、お前が好きが勝ったんだよ』
自分を嫌うより好きな人の涙を止めるほうが、よっぽど九蔵にとっては大切なことだとたった一言で気がつかされた。
『俺をお前に惚れさせてくれて、ありがとう』
文字を打ち込む指が奮えるくらい視覚化すると羞恥心が炙られた九蔵だが、ちゃんと画面をニューイに見せつける。
ニューイはこちらこそと飛びつくように九蔵を抱きしめ、いかに自分が九蔵に惚れているかという話を始めた。
思い返すと夜明け前の深夜になにをしていたのかと思うが、あれも必要なことだったのだ。間違いない。
──そんなわけで、復活を遂げた九蔵。
(よ、し……!)
現在エプロン姿で一人キッチンに立ち、完成した手作りバレンタインチョコなるものを前にしていた。
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