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「んじゃ、理由は?」 「ぐぬぬ……お、主に、九蔵を頼りたくないからだ。あのっ、別に意地っ張りでもマウント? とやらでもないのだよ? 九蔵以外にはなんだって晒しても構わない。だけど、九蔵にだけは頼りたくない(・・・・)。九蔵よりもできる子でいたいのだ」 「ふむ……」 「他の誰に負けても、九蔵にだけは負けたくない。私のほうが優れていて、私がキミを甘やかす。性格上、私は基本堕落させたいオンリーなのだよ」 「あぁ、なるほど」  蚊の鳴くような声で吐露するニューイに、九蔵はポンと拍子を打った。  だから昨晩、〝優等生でいたい〟と言っていたのか。「言えねーな」とゴネていた時にニューイが考えていたことを知って、モヤがひとつ晴れる。 「私はこう見えて、負けず嫌いさ」 「俺限定で?」 「うむ。……あと、九蔵は頑張り屋さんなので、ノロマな私はちょこっと肩身が狭い」  己を恥じて縮こまるニューイは、いつもの九蔵よりずっと小さく見えた。  ポンコツ故に、強いニューイ。  だからこそ余裕に見えるが、実際、せっせとハリボテを作っていたらしい。 「私はポンコツだけれど、九蔵の前では優等生でいたくてね?」 「うん」 「それはカンタンだった。悪魔は人間より長生きなので、多少は優れていて当然なのだよ。頑張らなくてもよくて、家事もピコピコもできなくて問題ない。九蔵は器用だけれど不器用であるし、私はどこか開き直っていた。むしろ今も開き直っている。というか頑張りたくない。今でハッピー」 「はい」 「でも、九蔵は頑張り屋さん……九蔵が頑張ると、私も頑張らねばならないだろう? なんせ、頑張りでも負けたくないからね。負けると九蔵を甘やかせない」 「んー?」 「だから、九蔵には頼れないのだ。ライバルには頼れないよ。……それに、さり気なくスキルアップをして格好つけたかったである」  死にかけのニューイは口元に両手を当てて、蚊の鳴き声をさらに小さくして言った。  養殖スーパーダーリン王子様にも、思うところがニョキニョキあるのだ。  王子様に頼られたいシャイなお姫様がボディを気にするように、王子様は〝ええかっこしい〟というプライドをどうあがいても捨てられないのである。  というか、白状すらしたくなかった。  言ったが最後、死んでしまいたい。 「って、顔に書いてあんぞ」 「やはり殺されたほうがマシ説が……!」  ニューイの顔色は真っ赤を通り越して真っ青であり、ポケ、と口から魂らしきものが飛んでいきそうなくらい満身創痍だった。  ショックがビックバン級だ。  ちなみに、九蔵にはよくわからない。  昨晩も言われたが今も微妙である。  ライバルが恋人なんて意味不明じゃないか? 恋人がダメダメなほど喜ぶなんて、とんだダメンズメーカーではなかろうか。 (……いや、ちっとわかる、かも) 「見るに耐えないブ男になれと思う時がたまに、ホントたまーにあるぜ……」 「? 九蔵も堕落させたいのかい? ダメだぞ。堕落させるのは私の役目だ」 「させたくもしたくもないですね」 「ベストは手足もいらないレベル」 「スプラッタ!」 「あうっ!」  どれだけガチなんだこの悪魔は。  九蔵のダメさを加速させたい願望に両手をワキワキさせるニューイの額に、九蔵はペチン! としっぺをした。 「んじゃ最重要事項。なんでそんなスキンシップにこだわんの?」 「むへぁ……」  これは聞かねば後々トラブる。  そう思って首を傾げると、ニューイは変な声を上げてへちゃむくれた。 「いや、別に……その、あんなに九蔵にお触り禁止をされてなぜなぜと拗ねてしがみついていたのは、意地もあってだな……」 「意地?」 「うむ……私は隠しごとをされても構わない。が、私は前までズーズィ以外友達がいなかった。しかもドジなので、とりあえずトラブルは自分原因が多かった」 「…………」 「なので、理由を教えてもらえないまま態度を変えられると、自動的に自分のせいだと思ってものすごーく焦るのである」 「……あー……」 「しかし九蔵は私を嫌っていないと言う」 「はい」 「ならなぜ!? と。スキンシップ好きの私だからこそ、余計になぜ!? と」 「はい」 「不安はストレスに変わるだろう?」 「そうですね」 「毎日が肝試しさ。モンスターハウスよりハラハラしたとも。それが一生なんて、とても耐えられそうにないじゃないか」 「把握」  ──そりゃ悪魔様すぐ死ぬ……ッ!  冷たくされる理由が不明で聞いても教えてもらえないパターンのストレス値。  これが昔からハブられまくってきたニューイにとって物凄かったことを完全に理解した九蔵は、コックリと頷いた。

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