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 それからスケジュール通りにニューイの支度を整え、合間に雑務や次の予定の準備をし、さっちゃんなおちゃんコンビに見送られながら九蔵とニューイは撮影スタジオに入った。  もちろんそこでも挨拶をしたのだが、誰に会ってもあのあのあの。 「あれ!? ニューイさんの恋人って彼氏さんだったの!? ごめん勘違いだわ~……やっぱそこらへんってちゃんと言っておかなきゃね。ってことであたし同棲してんの彼女です。え? みんな知ってた?」 「あら~おばちゃんかわいいさの化身だって聞かされてたからてっきり妖精さんみたいな子だと思ってたわぁ。ごめんなさいね。かわいらしい彼氏ちゃんだわ」 「君があのニューイの彼女……ってどう見ても男だぞこれやっべーどうすんだこれデリケートな問題では。えーっとトランスジェンダー予定の方? 九蔵ちゃんって呼んだほうがいいですかレディ?」 「はっ!? あんたがあのあっちのほうもこっちのほうも俺色に染まるウブで照れ屋で家事料理上手なうらやまけしからんあの恋人ちゃん!? 男じゃねぇか逆転無罪だよニューイお前とは今後も仲良くやってけそうだわ合コンしようぜ!」  とりあえず、みんなとてもいい人だ。  これはとてもいいことだ。  いや一応九蔵は、なんだか男と付き合っているだとかドイケメンモデルの恋人が冴えないフリーターだとか、バレたらニューイが気まずい思いをするかもと思っていた。  取り越し苦労である。  深刻なツッコミ不足のほうが問題だろう。  強いて言うなら、あのあのあのと言われるたびに土色の顔色でハハハと笑って誤魔化す九蔵を遠くからニヤニヤ見ている三藤の顔に可能ならばグーを入れたいが、まぁそれはさておく。  言いたいことは一つだけ。  ──拝啓ニューイさん。  あなた様は日頃いったい俺をどのように形容し、どのようにご説明なさっていたのでしょうか。 「はぁ……あとで覚えとけください……」 「うーいそろそろ裏に次の衣装用意しといてほしいんだけど誰かいけるー?」 「あぁ、それならさきほど用意しておきました。コーディネート確認許可済み、モデルさん待ちです」 「え」  撮影中のニューイのアピール力を高めるためカメラの後ろで仁王立ちする九蔵は、スタッフの声に答えつつ内心頭を抱えて羞恥心と戦争した。  帰ったらどうニューイを料理してやろうかとプランを練ることで現実逃避する。  なにも知らないニューイは魅了オーラを服にもまとい、九蔵の前でかっこつけたいがために冬服を着こなして大人のオーラを醸し出していた。ズーズィの策略通りだ。 「そういえば特集記事の進捗編集部との打ち合わせって何時からだっけ! 次の撮影データ送っとかなきゃ」 「十五時からだと思います」 「え」 「研修で見た感じだと編集部は会議ギリギリでデータの確認をしていますので、要点まとめてそれごと送ったほうが打ち合わせはスムーズかと。あと清水さんたぶん甘いもの好きです」 「ホント? ならデザート出すって釣ればあのインテリ真面目に聞くわね。社のカフェブース押さえなきゃ! でもあたしの仕事がっ」 「あ、なら後片付けは俺がヘルプ入ります。先データ確認してください」 「助かる〜! ってあれ?」  まったくニューイめ。  少しは九蔵の羞恥を味わわせてやりたい。  聞こえた別のスタッフの質問にも、たまたま知っていたので答えつつ。 「うむ……なんだか九蔵の意識が私以外に寄り道している気配が……」 「ニューイ〜? もうちょいそのアウターの生地感とライン意識させる感じで、って聞いてねぇなこれ」 「あーあーニューイのベストショットが見てみたいなー!」 「どっからでもかかってこい!」 「はいキメ顔いただきました〜」  もちろんニューイのモチベーションアシストも抜かりなくこなす九蔵は、腕組みをして顎に手を当て唸る。

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