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「俺が興味ないのはアイツじゃなくて横恋慕とかそういうことで、とにかく恋愛感情ではないですから! 俺がアイドルでアイツがファンだから好感度高いだけ!」 「うぅむ……だけどあの子は本当にイケメンにどえらい弱いのだよ? どえらい弱い。どえらいね」 「天井イケメンな恋人にそこまで言わせるってアイツ普段どんな感じなんすか……」 「主に画像、動画の収集量がとんでもない。イケメンしか登場しないピコピコのジャンルがあるのだが、クローゼットを開けるとちょっとしたお店を開けるレベルである……リョーマのグループのライブDVDもあるぞ」 「あ〜そらややこしくなるよな〜も〜九蔵〜も〜ッ!」  タハッと額に手を当て嘆く凌馬と、恋人のイケメン愛は尋常じゃないのだと腕組みをしウンウン頷くニューイ。  なぜか、自分の話をされている。  それも、あまり人様の話題にあがりたくないイケてる顔面収集癖の話をされている。別の意味で死にたい。  おいコラそこの監督。  無言で肩を震わせるのをやめろ。  自分の部下が死にそうなんだぞ。  とりあえず死にかけの脳で最初の話と今の話を繋げて推理したところ、どうやら二人の話題は九蔵についてだったようだ。  ニューイは九蔵が凌馬に恋愛的好意を抱いていると考え、本人に訴えている。  非現実的な話である。  そして凌馬はそれがあり得ないと説明しているが、九蔵がファンで自分がアイドルなので説明がややこしいとやさぐれている。  誠に申し訳ない話である。  生命力と引き換えに話が多少見えてきた。尊い犠牲だ。  未だに爆笑をこらえて無音のまま笑い転げている三藤はさておき。  しかしながら、ふと疑問が残った。  そもそもどうしてニューイは恋人がアイドルにリア恋していると勘違いしたんだ? という疑問だ。  勝手に恋敵の可能性感じてビビっていたことはバレないようにしていたが、バレたとしても凌馬ラブ! にはならないだろう。  普通は嫌いだと勘違いされそうだ。  全く嫌いじゃないが。生アイドルはスペシャル顔がいい。  推理モノの種明かし待ちの如く、九蔵はアンテナいっぱい二人の話に耳を傾ける。 「つーか、だとしても気にする必要ないと思いますけどね……」 「むっ?」  ──おっ!  すると、呆れ果てた凌馬が深い溜め息を吐き、どこか苦い感情を織り交ぜた瞳でニューイを見つめた。  ニューイがなぜ? と訝しげに首を傾げると、凌馬はやれやれと肩を竦める。 「だってニューイさんすげぇイケメンだし性格いいし、文句なしのいい男でしょ」 「うっ……そ、それは悪魔のベーシックプランというかもにょもにょ……」 「悪魔? はわかんないスけど、仮に、仮にね? ニューイさんの言う通りアイツが俺に惚れてたとしても、九蔵がアホみたいにイケメンにチョロいメンクイ野郎ならなおさら正統派イケメンのニューイさんとわざわざ別れるわけないじゃないですか? 自分で言うのもなんですが、俺って国民的アイドルですし」 「う、うぬぅ……!」  サラリと言ってのける凌馬に、ニューイがぐぬぬと言いよどんだ。  そらそうだ。  付き合える可能性が限りなくゼロなトップアイドルのために、すでに付き合っている洋風イケメンを捨てるわけない。  イケメンをすべからく愛するオタクなればギャンブルはしないはず。  これには盗み聞き中の本人も頷いた。  おっしゃるとおりである。というかそもそも別れませんので。別れませんのでッ! 「う、うむぅ……」 「な、の、で! 九蔵が他に惚れるかもとか、そんな未来のこと心配しなくても大丈夫ッス。今ゾッコンなのは俺が保証するんで。はい解決」 「うむむぅ……!」  凌馬はパン! と両手を叩いて話をまとめ、ニューイにニコリと笑顔を向ける。  それでもニューイは不満そうだが、弁が立つ凌馬に対して弁がよちよち歩きのニューイにはなにも言えず、渋い顔で黙り込んだ。

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