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「……あー……」  合掌ついでにサイレントで応援すると、我に返った凌馬がピクピクと笑顔を引きつらせながら再起動した。 「スパダリって、なんか聞いたことありますけど、ドラマとか漫画の中のヒーローみたいな男のことですっけ?」 「うむ! 実は私もよくわかっていない! とにかくとても余裕があってとてもかっこいい惚れ惚れするような非の打ち所のない男の名称である……!」 「いやニューイさんよくわかってねぇ存在目指してるんですか!?」 「むっ。そうなのだが、そうではないのだよ。ちゃんと話すが、私としては恥ずかしい話であるので秘密にしていておくれ」 「恥ずかしいとかそういう次元じゃない気がしますが……」  心做しかげんなりと脱力する凌馬。  気持ちはわかるとも。  かつてニューイにスパダリ願望宣言をされた九蔵とてどこからツッコめばいいのかわからなかった。  やはり本質的には気が合いそうである。  そんな凌馬を見つめながら、ニューイは真面目に引き締めた表情筋を、ほんの少しだけ解いてみせる。  そして夢見る若者のような口調で、凌馬に語った。 「私は……すーぱーだーりんという存在に憧れているのだよ」  ──だって彼らは、非の打ち所がないパーフェクトなイケメンだから。  ニューイはミスをする。  ドジでマヌケでポンコツである。  心の広さもそれなりサイズだ。  余裕なフリも大人のフリも王子様のフリもできるが、それらは全部フリに過ぎない。  実際はない頭蓋の中身をカラコロ振ってそれらしい振る舞いを取り繕っているだけ。  養殖プリンスとは、我ながら的を得た自負をしている。  なんなら恋人の九蔵のほうがずっと器用で聞き分けもよかった。やはり許す。  ニューイがあれこれ大丈夫かいと尋ねると、九蔵はみんな大丈夫ですと親指を立てた。  男気あふれる度量の深さだ。ニューイはとてもそんな気分にはなれない。  ピンチにはかっこよく駆けつけたい。  家事も仕事もそつなくこなし恋人をサポートしてみせたい。  もっとスマートにヤキモチを妬けないものだろうか?  そっと抱きしめて「妬いたよ」と。  ニューイは私のほうがいいぞとピヨピヨ訴えることしかできない。  二人でライブやドラマを見ている時。  九蔵に見つめられる画面の中のイケメンたちに「キミたちは煌めいているが、彼をこうして抱きしめられないだろう?」と密かにマウントを取っている。  画面の中だから安心できた。  現実で出会うこと。  恋人が喜びそうだとそちらを優先したが、あとになってお願いだから気づかないでおくれよ! と祈ってみたりしたものだ。  毎度バカバカしい話である。  どれだけアップデートしたって遅々として追いつかず誰もがキラキラ輝いて見える。  九蔵のための努力は一寸惜しむ気なんてないけれど、世界はニューイよりスーパーな者で溢れている。  ──あぁ、あぁ、この世の全てのスーパーなダーリンたちよ!  ──世界中の誰を魅了し愛しその全てを肯定し有り余るその輝きで抱き寄せ髪の一本まで可愛がろうが構わない!  ──けれど彼だけは否定してくれ!  ──彼だけは救わないでくれ!  余裕なフリが得意な悪魔は、やっぱり人のフリをした悪魔に過ぎない。  一皮むけば、恋人をそのフリで生涯騙そうと目論む悪魔。  だから気がつかないでほしい。  悪魔は王子ではないのだと。  だから気がつかないでほしい。  本物の王子たちがこのかわいい恋人の魅力や存在一欠片すらに。 「この世で一番、悪魔(わたし)が個々残 九蔵を必要としているのだ」  ──ハンパな飢えなら引っ込んでいろ。

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