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「って感じで、性格の悪い人間です」  全て語ってから、九蔵はおちゃらけた口調でヒョイと肩をすくめて見せた。  さらけ出すとこんなものだ。  玉岸と違いアルコールなしで言った自分は、今更かなーり恥ずかしくて頬が痒い。  あれだけ「自分は悪くなかったぞ!」と言ったものの、現実じゃ日頃の行いは当然加味されるし、相手には相手の言い分があって自分で気づいていない九蔵の悪事だってあっただろう。リアルとは複雑なもの。  だけど心のどこかで、全力で他人のせいにしていた。  全人類大嫌いだとまで思っていた。  思ったことを言わない自分を〝我慢強いステキな人間だ〟と誇っていたかもしれない。  もっと言えば平気なフリをして器用に退職した時も、玉岸の都合なんて……他人の気持ちなんて考えていなかった。  心のすべてはお互い様だ。  誰も自分の気持ちなんて知りもしないで、と拗ねていたくせに、自分だって他人の都合はお構いなしである。  ぶつからなければわからない。 「言ってくれないとわからないし、言われないとわからない。誤解して思い込んで疲れて悪い部分ばっかり見えて、最後にはアホみたいにキレ散らかしてさようなら。わかんねぇって、クソムカツク」 「…………」 「自分のそういう弱いとこ。認められて、さらけ出せるようになったのは、会社を辞めてここで働き出してからだった。お前の言うような俺じゃいられねーくらい、強烈な人たちが周りにいてくれるようになったから。だから、今日は全部言えたんだぜ?」 「……っ……」 「まさかこんなとこで会うとか思わなかったけど……玉岸がめんどくさい酔っ払いでよかったよ。じゃなきゃ一生、そんなこと思われてたって知らなかったしなぁ」 「こ、個々残……」 「ま、たまには偶然もいいもんですね」 「個々残ぉ~~~……っ!」 「どっへぇ」  クツクツと笑いながら丸く収めたつもりでいると、黙って話を聞いていた玉岸が、なぜかだばーっ! と涙を流しながらカウンター越しに九蔵へ抱き着いてきた。  こらこら待て待て。  今度はなんだ!? 「お、俺ほんとはもちっと前からお前がここにいんの知ってたんだよぉ~~……っ!」 「はい……!?」 「春の辞令でこっちの地区担当になってたまたま見つけてよぉ~……っ! 通りすがりついでに夜勤の頻度確認して一番いる確率の高い曜日にあたりつけて、俺が行ける中で一番迷惑にならなさそうな時間帯を狙って来たんだよぉ~……っ! 飲まなきゃやってらんなかったんだよぉ~……っ!」 「やっぱ仕事できるなお前さん、じゃなくて使い道なんでそこなんですかね!?」 「だってお前が辞めてから引き継いだ担当、すっげぇめんどくさかったぁ~! んでお前やっぱすげぇなって思ったぁ~! そんで勢いで貶めたけどよく考えると罪悪感が鬼だったぁ~! ごめんって言おうと思ったぁ~!」 「あ、あ~っ? じゃあなんで開幕知らん顔してたんだよ? 割と貶してたっつか喧嘩腰だったしなんかキレるしいきなり泣くし……」 「それはお前が全部忘れたって感じだったからぁっ! 昔の話してさり気あの時の話題出して謝ろうと思ったけどよくわかんなくなってぇっ!」 「つまりわけわからんままキレてたのな!」 「あぁぁんごめんよ個々残ぉぉぉっ!」 「わーわーっわかったから一回水飲んで落ち着け鼻水垂れてるっ!」 「個々残ぉぉぉぉぉっ!」 「鼻水垂れてるぅぅっ!」  洪水のごとくデロデロに垂れ流される涙と鼻水が制服につきそうで、目玉をひん剥き戦々恐々震える九蔵と、九蔵にしがみついてオロロンオロロンと泣きべそをかきまくる酔っ払いの玉岸。  玉岸がえぐえぐと語る真実も衝撃的だが、九蔵は今にもベタァとなすりつけられそうな鼻水が気がかりでそれどころじゃない。  火事場の馬鹿力でベリッ! と玉岸を引きはがし、なんとかお冷の入った湯のみを押しつけて洗濯の危機を回避する。  あの手この手で宥めすかして着席させて、わかったわかった許す許す俺も大好きズッ友マブダチイツメンしゅきぴ最高の同期! と口八丁手八丁で機嫌を取り、感動する玉岸をカウンターに落ち着けた。  これぞ元・できる担当の手腕だ。  普段手のかかる後輩に人外ズの世話を焼く九蔵の腕前は錆びついていない。ウィナー自分。  ふぅー……と息を吐いた時。  ふと、背後から視線を感じて振り返る。 「「「…………」」」 「……………」  と、厨房奥の壁にギチギチと隠れて並ぶうまい屋メンツプラスアルファの覗き顔と、ガッツリ目が合った。  上から順番に、悪魔、悪魔、アイドル、人妻、オッサン、悪魔、店長、悪魔、相棒、人外、後輩だ。  九蔵は無言で見つめ返す。  グッ! と親指を立てる覗きーズ。 「お迎えに来ました。恋人の悪魔です」 「暇つぶしの社長です」 「それに付き合うアイドルです」 「朝勤の人妻です!」 「付き添いの旦那です」 「朝勤の美悪魔で~す」 「付き添いの店長です」 「牛丼を貢ぎたい悪魔です」 「ハラヘリの後輩です」 「トカゲお迎え。です」 「社割で朝餉所望の後輩でござる」 「「「全員で聞いていました」」」 「はい死にます」

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