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第1章 片思いパワーでトライするのだ

    第1章 片思いパワーでトライするのだ 『──明日がなんの日か、もちろんご存知ですよね? そうです、二月十四日は愛の祭典バレンタインデイ。というわけで〝ときめきピーチパイの〟カメラはここ、丸栄百貨店さんのバレンタインフェアの会場にお邪魔していまぁす。のちほど今年の売れ筋ランキングもお届けしますので、お見逃しなくぅ』  ヤバい、マジに大誤算だ。外回りの途中で、ちょこぉおおおおっと寄り道したばかりにバチが当たったというのでしょうか?  女子のみなさま方が、百花繚乱と(けん)を競うチョコレートが陳列されたブースに殺到する模様が情報番組の中で生中継されているなんて、あっちゃ~! な事態だ。  三日三晩にわたって悩み抜いたすえに、決死の覚悟でこのデパートに乗り込んできたのに、催事場を前にして足がすくむ。男一匹、チョコの大洪水といった感がある売り場をうろついているところをテレビカメラに捉えられて全国放送された日には、お茶の間の笑い者になるのは必至の情勢なのだから。  タッパがあって、体つきもがっちりしている俺は、自意識過剰じゃなしに画面(えづら)的に「オイシイ素材」に違いない。  姉ちゃん曰く、 「大学時代にモデルクラブにスカウトされた実績に姉弟(きょうだい)のよしみをプラスして、イケメンの部類に入れてあげる。だからコンビニでアイス買ってきて」  とくれば、リポーターと目が合いしだいカモ認定されて、マイクを向けられる公算が大きいのです。ただでさえ紺色のスーツ姿は、周囲から浮きまくっているし……。  そこに二十七歳独身男性という要素が加われば、あれは自分チョコを買い求めにきたのだ、と視聴者の方々に解釈してもらえれるかどうかは微妙な線。  違う、あれはゲイカップルの片割れがパートナーにあげるチョコを買いにきたのよ……云々、とカメラの向こうの腐女子のお嬢さんに妄想のネタをみすみす提供するのは願い下げだ。

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