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第1話
今日はバレンタインだ。
チョコを作った尊 はカバンの中に隠し持ち登校した。
渡せる相手がいないチョコは一日中カバンの中で過ごすこととなった。
放課後、一人になった教室でチョコを眺めていた。
本当はあげたい人はいた。けどあげられない。それは同性だから。
いや違う、同性だからじゃない。僕に勇気がなかったからだ。
同性愛が許され始め、理解者が増えているのも知っている。
だからと言って、告白するのには勇気がいる。
中学生にもなって僕にはそれがなかった。
ため息をついて、綺麗にラッピングした箱を小さい紙袋から取り出した。
持ち帰りたくもない。
開けようとラッピングに手をかけると。突然誰かが教室のドアを開けた。
ハッとして、箱を机の下に隠す。
しかし、入ってきた人はそれを見逃さなかった。
「あっ、チョコ!?」
そう叫んだ男が僕の机に駆け寄ってきた。
「女子からもらったのか!?」
ずいっと顔を寄せてくる。その顔は容姿が整い、まつ毛が長く、地毛の金髪が目の前で揺れた。
「これは」
そう、このチョコはこの男に渡そうとしたもの。
この男はマシュー、アメリカ人で小学生の頃に日本に来たらしい。
気さくで、引っ込み思案の僕にもよく話しかけてくれる。
たまに日本語を間違えるがそこが可愛い。
けど本人は気にしていない様子だった。でもかわいいと言われると「カッコいいじゃないのか?」と不貞腐れる
それがまたかわいい。
その性格に、綺麗な容姿だ。男の僕が、好きになっても仕方ないと思う。
けど告白する勇気もなかった。
「ねぇ! 誰にもらったの!? どうやってもらったの!?」
気さくだが、こうやってブライバシー関係なく、遠慮なくなんでも聞いちゃうところもある。
「えっと」
「あ、いやなら答えなくてもいいよ。俺なんでも聞いちゃうから。でもいいなー。好きな人からもらったの?」
マシューの質問に驚いて顔を上げた。
「羨ましい? あんなに紙袋いっぱいに貰ってるのに?」
とマシューの机のわきに置かれている紙袋を指さした。
「たくさんもらっても、好きな人からじゃないとさ……」
とマシューは肩をがっくりと落とした。
「え、好きな人いるの!?」
「あ、今のなし! 秘密! 誰も知らない!」
マシューは慌てて顔の前で手を横にぶんぶん振った。
いまさらそんな事言われても好きな人がいないとは思えない。そうやってわかりやすく隠そうとするところも可愛い。噴き出して笑うと、マシューはムッとした
「あ、笑った! ひどい!」
「ごめんっ、マシューわかりやすいからさ」
笑ってはいるが尊の胸はずきりと痛んだ。分かってる。マシューにも好きな人はいるんだ。
「わかりやすいって何がさ」
「好きな人、いるんでしょ?」
マシューは驚いて、しゃがんで机に顔を隠した。
「そ、それがわかるならだれが好きかわかる?」
「えー、そこまではわかんないよ」
想像してもきりがない。思い浮かぶ可愛い女の子は何人かいるけれど、それがマシューの評価と同じとは限らない。
うーんと首をひねってると。マシューは机から顔を半分だした。
「そのチョコは誰に貰ったの?」
マシューは机の下から手を伸ばし、机の下に隠していたチョコに触れた。
ドキッとして、思わず手を引いた。
「一人ってことは好きな子?」
「ちっ、ちがうよ!」
マシューに他に好きな子がいるという勘違いをされたくないのと、
チョコを貰ってないのを信じてほしいのと、
尊は顔を真っ赤にした。
「こ、これは、その。ほら、友チョコ!」
「あーフレンドチョコ!」
マシューは立ち上がって嬉しそうに笑った。
「そう、手作りしたけど、あげる人いなくて。っというか、手作りなんて誰も食べたくないよね。だから渡せなくて」
緊張で涙が出そうになるのをぐっとこらえた。
チョコを机の上に置くとマシューはそれをいろんな角度から見つめた。
「手作り? 誰かが作ってそれをもらったんじゃないの?」
「うん」
そう返すと数秒沈黙が流れた
「それなら、誰かにあげるんじゃなかったの? あげようと思わないとチョコ手作りなんてしないよね? 渡せなかったって誰に渡そうと思ってたの?」
マシューはどこか焦った様子で身を乗り出した。
金髪が顔にぶつかりそうなほど、顔が寄ってくる。
それにドキドキして、体が熱くなる。
「それは」
「それは?」
隠したかったこの気持ち。隠してたかったけど、これ以上隠そうとすると心臓が壊れそうだった。そしてマシューはなぜかチョコを掴んで離そうとしなかった。
「マシューに、あげるよ」
「いいの!? フレンドチョコ!?」
「うん」
体も顔も熱い。が、マシューも頬を赤くして喜んだ。
「フレンド、友チョコ貰うの初めてだ! やったー」
と飛び跳ねん勢いで喜んでいた。
「そんなに喜ばなくても」
と静止しようとするが、マシューはチョコを抱きしめた。
「ってことは尊は僕が好きってことだよね!」
「そ、そうだね。好きだよ」
この言葉がマシューにどう届くのかわからないけど。きっと悪い様にはとどかない。そう願った。
「じゃあ僕も言うね。僕も尊のことが好きです! ずっと尊のチョコ欲しかったんだ。だから放課後まで時間つぶして待ってたんだ! 皆には秘密だよ」
と唇に人差し指を当てた。
そのしぐさが可愛くてドキッとして、好きという言葉にも動揺した。
「やったー、大好きな尊からのチョコだー。あ、じゃあ、僕そろそろ帰るね。日本語塾があるから急がないと」
マシューは嵐のように喜んで帰っていった。
手元には紙袋だけが残った。
渡せた。あの反応だと、友達としてだと思うけど嫌われてはいない。バレンタインでチョコを上げても平気なくらいには好かれている。
それにホッとしたのもつかの間、なぜ好かれているのか疑問が残った。
これから毎日ひとつずつ話して理解していけばいいか。
尊はほっと息をついた。
それは渡す前についたため息とは違って安心しての物だった。
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