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落ち込んでいます
「ただいまぁ~」
ガチャッと玄関を開けながらそう言った蒼は、しかし中からひとつも声が帰って来ないことに首を傾げた。
今日は同居人の大半が遅くなるとは聞いていたが、それでもこの時間にはすでに湊は帰っているはずで、今日は帰ったら撮りためていたアニメを見るのだと朝食の時に言っていた気がする。しかし耳をすませてみてもテレビの音さえ聞こえず、シンと静まり返っている。
家の中にいたら必ず挨拶は返す。それは誰が決めたわけでもないがこのルームシェアを始めた時から自然と皆が欠かさず行ってきたことで、ならば湊はどこかに出かけているのだろうかと考えたが、それならばそれで不用心極まりない。なぜなら玄関の鍵は開いていたからだ。
どうしたのだろうと首を傾げつつもリビングに繋がる扉を開けば、そこに何も映っていないテレビを茫然と見つめながら身じろぎ一つしない湊がポツンと座っていた。蒼が帰ってきたことにさえ気づいていない湊は完全に心ここにあらず、抜け殻のようだ。彼も含め、彼の周りには色が抜け落ちている。
「……み、湊? どうしたの?」
まだ最終回ではなかったはずだが、そんなにも燃え尽きてしまうようなアニメだったのだろうか?
そんなことを思っていれば、ようやく湊がぎこちなく蒼を振りかえる。「ァ……、オカエリィ……」と実に力のない声が返ってきて、いつも人一倍テンションの高い彼だから余計に違和感に苛まれる。
「何かあったの?」
問いかければ、未だ魂の抜け落ちたような瞳をしながら湊が口を開く。
「ねぇ、あおい……。なんで、俺が好きになるキャラってさ……、死亡率百パーセントなのかな……?」
察するに、どうやら今回のアニメで湊お気に入りのキャラがフラグを回収されたらしい。そういわれれば確かに湊が「好き」と言ったキャラは男女問わず最終回まで残っていないことが多かったが、しかしいつもは悲しみこそすれこれほどまでに抜け殻にはならなかったはずなのに。よほど好きなキャラだったのだろうか?
「そっか……。まぁ、でも、フラグは立ってたんでしょう?」
「ぃゃ……、なんでか突然だった……。それはもう心の準備なんてさせねぇよってくらい突然だった……」
だから今回は死なないかもってちょっと期待してたのにぃ、と思いっきりクッションを抱きしめて嫌だー、認めないぃぃぃ、と叫んでいる湊に蒼は自らの鞄を漁り、中にあった湊が大好きなチョコレート菓子の箱を取り出して、無言で彼に渡す。そしてスマホを取り出し、同居人にメッセージを送ったのだった。
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