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和臣による恭介へのデンジャラスな想い

 きっかけは中学生のとき、恭ちゃんが職員室に呼ばれて不在だったタイミングで、隣のクラスの級長に話しかけられたことだった。 「高木、今あいてる?」 「あ、うん。でも教室からは出られないんだ」  トイレで襲われてからは、絶対にひとりで行動するなと恭ちゃんに言われていたので、それを守るべく出られない宣言をした。 「いつも一緒にいる榊は?」 「担任に呼ばれて職員室に行ったばかりだよ。もしかして放課後にやる級長会議の用事で、わざわざ顔を出したとか?」  恭ちゃんには劣るが、整った顔した隣のクラスの級長をうらやましく思いながら眺めた。  背が高いだけでもうらやましいというのに、ちょっとだけ釣り上がってる切れ長の一重まぶたは知的な感じに目に映る上に、それを引き立てるようなすっと通った鼻筋や形の綺麗な唇は、まったく嫌みを感じさせないものだった。 「いいや、高木に用事があってさ。聞きたいことがあって」 「僕に聞きたいこと?」 「榊とデキてるの?」 「へっ!?」 (デキてるって、何ができるというのだろう?) 「実際、ヤってるのかって聞いてるんだけど?」  最後は苛立った様子で訊ねてきた。だけど言ってる意味が分からず、首をかしげるしかない。 「ぁあ、もう! おまえさ、ウチのクラスの阿部に襲われたんだろ? そういうことを榊とヤってるのかっていう話」  まぬけな僕にでも分かる具体的な話の内容に、顔から一気に火が出た。 「やっ、あのっ……あんなコトを恭ちゃんはしないって」 「マジで何の関係もないんだな?」 「うん。僕らはただの幼馴染みだし」  それ以上でも以下でもない。 「あのさ、榊の隣を明け渡してくれないか。見た目と中身が伴っていない君とじゃ釣り合わないよ」 「それって……」 「俺、榊が好きなんだよね。幼馴染みっていう特権を振りかざしながら、でかい顔して居座るなっていう話さ」  恭ちゃんの隣を明け渡す――いつも自分が横にいる場所を、他の人に渡すなんて……。昔からそこは僕の定位置なんだし、幼馴染みの何が悪いんだ。恭ちゃんの傍にいる特権を振りかざしちゃいけないの!?  一応、眉根を寄せながら不快感をあらわにしてみた。  どんな言葉で明け渡さないぞと言ってやろうかを考えていたら、目の前で大きなため息をつく。 『榊もどうして、こんなのにかまっているのやら。ああ、そうか。あまりにも出来が悪すぎて憐れんでいるのかもね』 「なっ!?」  よく喋る口は、僕の言葉を奪うものだった。しかも現実を突きつけられているせいで、ますます口答えができない。 「話が一方通行の時点で、本当にイライラさせるよね。ますます榊の傍にいられるのがムカつくよ」 「それは――」 「あっ、榊! ちょうど良かった」  言いかけた僕のセリフを無視して恭ちゃんの傍に駆け寄り、捕まえたと言わんばかりに抱きついた。しかも意味深に笑って、こっちを見る。 「くっ……」  バカでどんくさいことくらい自覚しているものの、他人に言われることほどイラつくものはない。ふざけるなって感じだ。  だけどそれ以上にムカつくことは、人のことをバカにしたヤツにされるがままでいる恭ちゃんに対してもだった。  あんなのに抱きつかれて喜ぶはずがないのは分かっているけれど、やっぱり面白くない。友達がコミュニケーションでしているハグとは、まったく種類が違うものなのに。そこに邪な気持ちが込められているのに、どうして分からないんだよ。  僕はそんなゆがんだ気持ちで、恭ちゃんに接していない。そう、ただの幼馴染みとして純粋な想いで――  じゃあどうしてこんなのに、胸がシクシクと痛むんだろう。格好いい恭ちゃんを取られたくないとは思ったけど、これって僕個人のワガママなのかな。  僕はただずっと恭ちゃんの隣にいたいだけなのにと、このときは思っていた。  自分の中に秘めている想いが恋愛感情だと気がつくまでは、綺麗な気持ちだと信じて疑わなかった。

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