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朝起きたらチンコになっていたという友人を食った俺の話

 あいつのことが好きだって気付いたのは、たしか大学三年生ぐらいのときだから……かれこれ八年近い歳月を片想いしていることになる。  だってあいつはノンケ。これまでに女としか付き合ったことがない男だ。  片や俺はというと、小四のときに教育実習にきた男の先生にほのかな恋心を抱いてからずっと、男一筋で生きてきた。  あいつとは決して、抱き合うことを許されない俺。  だけど……それが分かっているからこそ、せめて友人として側にいたいと願うのは当たり前の話じゃないか。  就職を機にあいつが住むマンション付近に引っ越した。  勤め先こそ違えど勤務地はあいつの会社近く。通っているジムも一緒。  最低でも週に三日は共に飯を食う仲。  我ながらストーカーみ溢れているけど、これも仕方ないことだ。  ただそんな環境が、堪らなく辛いときもある。  あいつに女ができたときだ。  飯を食ったり遊んでる最中に電話がかかってきたり、SNSのメッセージをやり取りしている姿を見ると、やるせない気分にさせられてしまう。  俺との先約も、カノジョ次第でキャンセル……なんてことも、一度や二度じゃない。  もちろん俺はあいつのトモダチだから、「気にすんな。カノジョを優先してやれよ」って笑顔で送り出すけど、内心は嫉妬の嵐。  俺の方が長い時間、ずっと一緒に過ごしてきたんだ。ポッと出の女が出しゃばるんじゃねぇ! なんてことを考えたりもして。  ……実際に口に出したことは一度もないけど。  あいつが欲しくて堪らないのに手に入れられないもどかしさ。  哀しみと苛立ち。  それら全部を解消するために、俺は少しでもあいつに似た男を見かけるたびに、セックスに誘うようになった。  別にセックス相手と付き合いたいとか、そんなつもりは毛頭ない。  だって俺が好きなのは、やっぱりあいつだけだから。  一晩だけでいい、あいつに抱かれてるって夢が見たかっただけなんだ。  こんな屑な俺にも、恋人として付き合って欲しいって告白してくれる男はいた。中には俺を甘やかして、優しく包み込んでくれるやつだっていたのだ。  その男と付き合ったら、こんな俺でもきっと幸せになれたんだろうな……と、今でも考えることがある。だけど……やっぱりどうしても頷けなかったんだ。  あいつ以外と付き合うなんてこと、俺にできるはずがない。  俺はきっと一生パートナーを見つけることなく、一人で死んでいくんだろうな……そんなことを思っていた矢先。 「朝起きたら、チンコになっててさ」  あいつが最高に頭おかしいことを言い出した。  しかも、すげぇ真面目な顔して。  言うに事欠いてチンコって。  チンコ、チンコ……。  とりあえずまぁ、爆笑するよな。しない方がおかしい。 「冗談じゃないから! 本当に本当なんだって!!」なんて言うけど、そんなもん信じられるか。  どうせアレだろ、くだらない悪夢でも見たんだろ? って適当に流そうとしたのに、あいつは俺を信じさせようと必死になって語り出した。  なんでも、朝起きたら知らない男のチンコになっていて、そのまま一日チンコとして過ごす羽目になったらしい。  パンツの中は蒸れるし臭いし、最悪な時間を過ごした挙げ句、チンコの宿主(?)である男がゲイだったため、その恋人である熊っぽい中年らしい男と、セックスしてしまったんだとか。  ……なんじゃそりゃ。  随分と頭の悪い夢だな、おい。  友人はかなり真剣な表情でアツく語っているが、そうは言ってもたかが夢。こいつは俺を呼びつけて、一体何がしたかったんだ? と思っていたら。 「いいゲイバー知ってたら教えて欲しい」 「………………はぁっ?」  まさかの言葉に、心臓が凍り付いた。  なんでこいつは俺に、ゲイバーのことを聞く? 俺、今まで一度もそういう話した覚えないぞ。  まさかこいつ、俺がゲイって知って……?  頭の奥で、ガンガンと大きな音が鳴り響く。  一気に血の気が引いて、指先が氷のように冷たくなったのがわかった。  話を聞いてみると、やっぱりこいつは以前から俺がゲイだと気付いていたらしい。  こいつに似た男とホテル入ってくの見かけたんだと。  男漁りするときは毎回変装……って言っても帽子被るか伊達メガネするか程度だけど、それでも一応すげぇ気を遣ってたつもりだったんだけどなー。  それでもバレるなんて。  自分の迂闊さに涙が滲んでくる。 「気持ち、悪いだろ?」  こいつはノンケだ。男が男を好きだなんて、どう考えたって気持ち悪いと思うに決まってる。  俺たちの関係もこれで終わりか……って思ったら、胸と胃がギリリと締め付けられる感覚がした。  なのに。  あいつは言ったんだ。 「いや、別に気持ち悪ぃとか思ってねぇよ?」って。  俺が女が好きなように、お前は男に恋愛感情持ってるだけだろ、って。  泣いた。  心の底から泣きまくった。  俺はずっとこいつを誤解していた。いや、世間一般の常識に囚われて、こいつの本質を何一つ理解していなかったんだ。  八年も一緒にいたっていうのに。  LGBTが周知されるようになった昨今だけど、本当の意味で同性愛や性同一性障害に対する理解度が高まったとは言いがたい。俺たちのような性思考の人間はからかわれ、嘲られ、悪口を言われ、社会の輪から爪弾きにされて受け入れてもらえなくなる。  何度も言うが、こいつはノンケ。根っからの異性愛者だ。  俺が同性しか愛せないって知ったらきっと白い目を向けてきて……そんな妄想をしては恐れ、ずっとひた隠しにしていたのだ。  なのにこいつは事もなげに「気持ち悪いとは思わない」って。  ちくしょう、そんなこと言われたら号泣するに決まってるじゃないか。  積年の重荷がスッと消えていった気がして、心が一気に軽くなった。あぁ、こいつを好きになったなんて、俺ってやっぱ見る目あるよな……なんて感動すらしていたのに。  なんでそのすぐ後に 「男とのセックスがあれだけ気持ちいいもんだなんて知らなかった」  なんて言い出すんだよ!!  お前ノンケじゃなかったのか? さっきの話はただの夢なんだろう? 「女とするよりよかった……気がする」って? 熊中年とのセックスにハマっちまったのか!!  こいつを目覚めさせたのが俺じゃないという敗北感と、こみ上げる怒り。  ほぉ、そうか。 「今度は誰かのチンコとしてじゃなくて、俺自身の体で経験してみたい」んだな。  ゲイバーに連れてけって、つまりアレか。男漁りしたいってことか。  よくもまぁ、そんなこと言えたもんだ。八年間も片想いしている俺の前で!!   俺の気持ちに気付いてなかったんだから仕方ない、なんてことは言わせない。 「……わかった。いい店知ってるから、今から行こうぜ」  苛立ちを抑えながら、俺はそう提案した。 「マジか! ありがとな!!」  無邪気に笑っていられるのも今のうちだ。  お前の望みどおり、今夜は男のケツを存分に味わわせてやろう。  でもそれは、ほかの男なんかじゃない。お前の相手は、この俺だ。  八年間の想いと共に、男の味をたっぷりと堪能させてやろうじゃないか。 **********    訪れた店は、行きつけのゲイバー。  繁華街を少し外れたところにある雑居ビルの地下一階にあり、薄暗い店内は往年のジャズ喫茶を彷彿とさせる。そのせいか若い奴がこの店を訪れることは少なく、常連客の最年少はアラサーの俺だったりする。  静かな雰囲気。ガツガツしている客もおらず、心なしかのんびりとした空気が漂っている店内。  そのせいか正直そんなに繁盛しているとは言えないのだが、それが逆に心地いい。  ドアを開けると、カランと来客を告げるベルの音が店内に響いた。 「いらっしゃい」  某イケオジ俳優似のマスターが、おや? と言う顔で俺を見る。  俺がこの店に誰かを連れてくるなんて、初めてだもんな。そりゃ驚くか。 「やぁマスター。今夜は友だちを連れてきたよ」 「あ……ども……」  少し上擦った声で挨拶をする友人。ガラにもなく緊張しているらしい。  カウンターへと案内すると、やつはビールを注文して忙しなく辺りを見回している。俺も同じものを注文。  マスターは意味ありげな視線を俺に向けている。 「マスター、こいつさ、こういう店初めてなんだ。とりあえずちょっと、雰囲気だけでも味わわせてやってよ」  言下に『俺らに構わないでくれ』と含ませると、マスターはニッコリと微笑んだ。  了解、ということだろう。  まずはビールで乾杯。  新顔が珍しいせいか、常連客らが俺たちに視線を向けてくる。中には舌なめずりしそうな顔で、友人を見る男もいる始末。  こいつ女にもモテるけど、男受けもするタイプなんだよな。  不躾な視線を威嚇で躱し、牽制する。そんなことを繰り返していたら、こいつが俺の本命であることを察したらしく、視線を送ってくる奴は一人また一人と減っていった。 「結構、誰も話しかけてこないもんなんだな」  グラスを傾けながら、友人が言う。 「意外だったか?」 「ハッテン場、って言葉があるじゃん。だからなんか、もっとこう……すぐに誘ったり誘われたりするもんだとばかり思ってた」 「場所にもよるだろ。ポルノ映画館とか公衆トイレなんかは、すぐヤれるって聞くし」 「へぇ…………あの、さ。お前もそういうとこで……」  ヤったことがあるかって聞きたいようだ。  普段はこんな突っ込んだ話まで聞き出すような男じゃないのに。酒が、回ってきたのだろうか。家でも飲んでたわけだし、仕方ないか。 「俺はそういうとこで相手を探すことはないかな」  そう言いながら、ハイボールを注文。こいつの分も併せて二杯。 「いや、俺はもういい」 「そんなこと言うなよ。もう少し飲んでリラックスしろよ。あまり|鯱張《しゃちほこば》ってると、誰からも声かけられないで終わるぜ?」  声がかからないのは俺のせいなんだけど、それを誤魔化し酒を勧める。 「そうなのか?」  なんて言いながら、運ばれてきたハイボールに口を付ける友人。ほんと、素直でかわいいな、おい。 「さっきの話だけどさ。ハッテン場はとにかくヤりたいってときは便利らしいけど、俺はそういうの嫌なんだよね」  俺の場合は特に、こいつに似た部分がある男にしか食指が伸びない……というか、性欲が湧かない。だからたとえ一回こっきりの相手だったとしても、じっくり観察してこいつに似た部分を探す必要があるのだ。  ……って俺、どんだけこいつに惚れてんだか。笑っちまうよな、全く。  内心自嘲する俺には気付かず、友人はハイボールを一口グビリと煽ると「お前、結構マジメなんだな」なんて、妙に感心している。 「俺はいたってマジメだぜ。お前の中の俺、どんだけチャラいんだよ」 「いや、そうじゃなくってさ」  詰るように言ったせいか、友人は慌ててグラスを煽る。普段よりペースが速いけど大丈夫か?   まぁ、俺にとっては逆に好都合なんだだがな。 「俺、さ。ここ連れてきてもらったのって、もろ興味本位なわけじゃん。ちょっとヤれたらいいな……みたいな。お前みたいに全然マジメな考えじゃないからさ、今の話聞いてなんかこう……俺ってどうなのよ、とか思っちゃうじゃん?」  しどろもどろの友人。だけどそんなの、全然気にしなくったっていい。  俺の方こそお前が考えているほどマジメじゃないんだ。  何しろお前を食う気満々なんだからな。 「そんなの今は気にするなよ。とりあえずまぁ飲もうぜ」 「ぉ、おう」  かんぱーいとおどけたようにグラスを合わせ、直後に俺はこの店で三杯目となる酒を注文したのだった。 ********** 「よいしょ……っと」  泥酔しきった友人をベッド寝かせ、汗を拭って息を吐いた。  こいつ見た目は普通だけど、ジム通っているせいでわりと筋肉あるんだよな。当然その分重みは増すわけで。しかも今はすっかり寝入って体にまるで力が入っていない。  バーからホテルまで連れて行くるだけでも、かなりの重労働だった。 「さて……」  ベッドに下ろしてもまるで目を覚まさない友人をチラリと見下ろすと、ヤツはまるで目を覚ます様子がない。軽くいびきをかきながら、完全に熟睡している。 「……暢気なもんだな」  八年間、ただの友人でしかない俺に襲われたって知ったら、こいつはどう思うだろう。  軽蔑……されるだろうな、やっぱり。  やってることは、ただのだまし討ちだから。  いくら男とセックスしたいと思ったとしても、俺のことは対象外だったに違いない。じゃなかったらわざわざ「バーに連れて行け」なんて言い出さなかったはず。  なのに俺は……。  胸の奥がギリリと痛む。  やっぱりやめようか。  今ならまだ引き返せる。  こいつをこのまま寝かせておけば、俺たちの友情はこのまま続く。  今夜のことだって、いつか笑い話にできるはずだ。  はず……なんだけど……。 「いやだ」  胸に溢れた思いが、ポロリと零れ落ちる。  こいつとの友情を取るってことはつまり、俺はこれから先もずっと誰かにこいつが盗られるのを見続けなければならないというわけで。  ……それだけは嫌だ。絶対に。  嫌われてもいい。もう二度と会えなくなっても構わない。  だから最後に一度だけ……。  覚悟を決めた俺はまだ夢の中にいるこいつを置いて、風呂場へと向かった。 **********  汗を流して後ろの処理も済ませた俺は、満を持して浴室を出た。  静かにベッドに歩み寄ると……友人はまだ夢の中。  いびきはさらに大きくなって、涎まで垂らしている。かわいいな、おい。  こんなだらしない姿すらかわいいと思えるなんて、俺も末期だな……なんて考えながら、腰に巻いたタオルを取り去る。  これからのことを考えただけで緩く立ち上がりかけている俺とは対照的に、友人の股間は静かなものだ。それもまぁ仕方ないことか。  とりあえず勃たせないことには始まらない。  ベルトを外してデニムのジーンズと下着を一気に脱がせた。下着はボクサーブリーフ……ではなくトランクス。  さすが「人間に戻れたら絶対トランクス派に宗旨替えしようと決意した」と豪語していただけのことはあるなと、少し笑ってしまった。  萎えたチンコに顔を寄せ、臭いを嗅いでみる。  こいつが言っていた熊中年ほどじゃないと思うが、俺も蒸れたチンコの臭いと味が好きだったりする。  なんというか股間の臭いがキツければキツいほど、相手の雄みを感じられる気がして体の奥が疼くのだ。  俺は密かに股間から漂う雄の臭いは、いわゆるフェロモンじゃなかろうか……などと考えているんだが閑話休題。  まずは目の前のチンコに集中しよう。  スゥッ……と息を吸うと、汗や尿の混じる独特で濃厚な刺激臭が、鼻の奥にツンと刺さる。  だけど少し物足りない。  物凄い臭いってわけじゃないのだ。トランクスの弊害だろうか。こいつには即刻、ボクサーに戻してもらいたいところである。  ペロリ、とカリを一舐め。チンコはピクリともしない。友人も全く起きる気配がない。  調子に乗った俺は、そのままカリを咥えた。  舌にピリリと、微かな刺激。えも言われぬ独特の味が口内に広がる。  そのまま舌を動かしてくびれの部分をベロリと舐め上げた。この部分には汗が溜まるんだろうか。味が濃い。  友人が起きないのをいいことに、俺は夢中になってチンコを舐め続け、パクリと咥える。全く大きくないから、喉の奥まで一気に飲み込むことができた。陰毛が鼻や頬に当たって擽ったい。  最初は全く反応しなかったチンコも、舌も使ってムニムニと揉みほぐすように刺激してやると、少しだけ芯が硬くなった。 ――俺で感じてる……。  感動が胸を占める。好きな男が自分で気持ちよくなってくれるなんて……ヤバい、涙が出そうだ。  ジワリと浮かぶ涙を堪えながらなおも刺激し続けると、チンコはあっという間に半勃ちくらいの硬さになった。しかしそれ以上はなかなか大きくならない。  飲ませすぎたか……? とやや後悔するも、とにかくもっと大きくすることにする。  ジュウッと音を立ててしゃぶりながら、陰嚢へと手を伸ばす。チンコの熱さとは対照的に、そこは少しひんやりとしていて、ペタリと手に吸い付いてきた。その感触が楽しくて、手のひらで何度か弄ぶ。  酒のせいか、はたまた欲求が溜まっていないのか。陰嚢はダラリと伸びきっていて、たるんだ皮の中にうずらの卵を一回りほど大きくした玉がその存在を主張していた。  それをやわやわと揉みながら、カリを咥え直してそこだけをチュウチュウとキツく吸う。鈴口に舌を差し込み、グリグリとこじ開けるように舐めていると「んっ……」と甘い声がした。  ダブルの刺激はよほど強かったのだろうか。  それまで全くの無反応だった友人の口から出た、少し鼻にかかった甘い吐息。それを聞いただけで、俺の背中を快感がゾクゾクと走り抜ける。  あまりの嬉しさに、俺は無我夢中でチンコをしゃぶり続けた。  俺の口内で大きさを増していくチンコ。それと同時に、友人の息も弾んでいく。 「あっ……んんっ……」  吐息は完全に、喘ぎ声に変わっている。  調子に乗った俺は、ほぼ完勃ち状態にまで成長したチンコを咥えながら、唾液をたっぷりと含ませて頭を上下に激しく振った。静かだった室内に、ジュボジュボと卑猥な音が響き渡る。  繰り返されるディープスロート。  カリを喉奥でキュッと締め付けてやると、チンコがビクリと跳ねた。どんどん硬さが増してくる。上顎を掠めるさっきまでダラリとしていた陰嚢も、いつしかパンパンに硬くなっていた。  先ほどから感じる、塩気を含んだ味。口の中は先走りでいっぱいだ。  このまま続ければ、こいつは間違いなく確実に射精するだろう。 でもそれじゃだめだ。口の中でイカせて堪るか。  俺はベッドサイドに置いたローションのボトルを引き寄せて、手のひらにぶちまけた。  風呂場で温めて来たと言うのに、もうすっかり冷めている。それを尻まで持って行き、孔の回りに塗り込んだ。  ヒヤリとした感触にアナルが一瞬キュッと萎んだが、構わずに入り口を揉みほぐす。  ローションはすぐに指と尻の温かさに馴染み、孔も少しずつ広まっていく。指一本を易々と飲み込んだあたり、俺のアナルは優秀だと思う。  ローションを都度足しながら、二本三本と指を増やしていく。  その間も友人への刺激は忘れない。  射精しないように手加減をしながら、けれど喉奥までしっかり咥え込んで、緩い抽送を繰り返す。 「あっ、あぁっ」  友人の喘ぎ声に混じって、ローションの粘着質な音がグポグポと響く。  それがかなりの興奮材料と形、俺自身のチンコも相当な硬さになった。垂れた先走りが股を伝って流れて落ちる。 ――そろそろか。  用意していたコンドームを装着させるべく、チンコからソッと口を離す。 「ぅぁ……?」  今まで感じていた快感が急に引いたためか、友人が戸惑ったような声を上げた。  大丈夫、すぐにもっと気持ちいいことしてやるから、お前はそのまま寝ていろ。心の中でそう宥めながら、パッケージを切って手早く装着する。 ――よし。  友人を跨いで、その切っ先にすっかり蕩けきったアナルを当てた。期待しきった俺の孔は、早くチンコを飲み込みたいと口をパクパクさせている。  焦るな、相棒。今すぐ入れてやるからよ……っと。  ゆっくりと腰を落として、友人のチンコを飲み込んでいく。一番太いカリを収めた瞬間、背筋がブルリと震えて、射精感が一気にこみ上げた。 「……ぁっ!」  なんとか持ちこたえたけど、弾みでナカがキュッと締まったらしい。 「うあっ……?」  それまで眠っていた友人が、ゆっくりと目を開けた。 ――ヤバっ……。  こいつが寝ている間に済ませようと思っていたのに、まさか目を覚ますなんて……。  頼む、もう一度眠ってくれ!!  そんな俺の願いも虚しく……友人は完全に目を覚ましてしまった。そして自分の上に跨がって、チンコを食らっている俺を見て「うぇっ!?」と驚愕の声を上げた。  酔いと眠気は完全に飛んだらしく、目を皿のようにして結合部分を凝視している。 ――終わっ……た……。  冷や汗がタラリと頬を伝う。  こんなレイプ紛いのことをしたんだ。こいつは絶対に俺を許さないだろう。  許されないことをした自覚はある。  どうしてもこいつをほかのヤツには渡したくなかった……なんて完全に俺のエゴだもんな。もう顔も見れなくて、俺はただただ俯くことしかできなかった。  先ほどの淫猥な空気が一転、重苦しい沈黙がのしかかる。 「……ぁ……おま、」  長い沈黙を破ったのは、友人の方だった。 「もしかして」  俺をレイプしてるのか――そう詰られると覚悟した。  なのに。 「俺のために体張ってくれたのか……?」 「………………はっ?」  飛び出したトンチンカンな発言に、俺の頭が真っ白になった。 「お前、昔からそうだもんな。大学のとき、俺のためにノート纏めてくれたり、代返してくれたり。いつかインフルで寝込んだときも、看病しにきてくれたしな」  ……んんっ?  たしかにそんなこともあったけど、それと今の状況と、なんの関係があるんだ?  友人が言わんとしていることの意味が本気でわからず、思わず首を傾げる。 「だからさ、俺が男とヤってみたいって言ったの気にして、お前が相手してくれたんだろ? あのバーで俺らに声かけてくるヤツいなかったしな。誰からも相手にされなかった俺が可哀想になって、お前がひと肌脱いでくれたんだろ?」  んんんんんーーーーーっ?  なんでそういう考えに行き着くんだ?  普通この状況見たら、レイプされたってハッキリわかるだろうに!  あまりのぶっ飛び発言に、クラリと目眩がした。 「なんか……申し訳ない。俺が変なこと言い出したせいで、お前に迷惑かけちまって」 「いや……そんなことは……全然……」  てゆーか、むしろ俺の方が大変なことしちゃってるわけだし。 「ほんと、悪いな」  ハハハって笑ってる場合か。  てゆーか強姦魔に謝ってどうすんだ。俺だからいいものの、もっと悪い男が相手だったらお前、これをネタに何をされるかわかったもんじゃないぞ!? 「お前さ……よくぞこれまで無事で来れたな」 「んっ? 何が?」 「……いや、なんでもない」  脳天気な友人に、一気に脱力する。  天然か。天然がこいつを救ってきたのか。  「ところでさ」 「あぁ?」 「気持ちいいな……お前んナカ……」 「……はっ?」  グリグリと俺の奥に擦り付けるように腰を揺らめかせる友人。その表紙にチンコがイイトコロに当たって、フッと息が詰まる。 「んくっ……!」 「あー、すげー温けぇし、めっちゃ締まって気持ちいい……」  友人は恍惚の表情で、なおも腰をうねらせる。 「ぅあっ、ちょ、っと待てっ」  イキそうになった直後の孔に、その刺激は拙い。  こいつの目が覚めたと同時に萎えかけた俺のチンコが、一瞬で勃ち上がる。 「うぉ、すげぇ……」  天に向かって屹立するチンコを見た友人が、ゴクリと喉を鳴らした。 「……なぁ、お前も気持ちいいの?」 「んなこと、聞くなっ」  気持ちいいに決まってんだろ、馬鹿!  よすぎてむしろ、今にもイきそう。射精感がジワジワとこみ上げる。 「あっ、また締まりよくなった」  嬉しそうな顔で笑う友人に、もうどうしていいかわからない。 「それ以上言うなよな。抜くぞ」 「ケツの孔で俺のチンコ咥え込みながら、何恥ずかしがってんだよ」 「っせーな、もう抜く!」  改めてそんなこと言われたら、恥ずかしすぎていたたまれない。  本気で抜こうとしたそのとき、ガバッと起き上がった友人が突然俺を抱きしめた。 「悪かったよ。でも本気で気持ちいいからさ。すげー最高……」  耳元で囁かれて、ゾクゾクとした快感が再び迫り上がる。 「……女よりも?」  無意識に出た言葉に、自分でショックを受けた。 「やっぱ女かなぁ」なんて言われたらどうするんだ。本気で立ち直れない。ショック死ものだ。  けれどやつは言った。 「お前の方がいい」と。  キッパリと、そう断言した。 「……本気か?」 「自分でも驚きだけどさ」  本物の男のケツがこんなにいいって思わなかった……と呟いて、俺を抱いた手に力を籠めた。 「ナカは火傷しそうに熱いし、ケツ全体で俺のチンコをギュウギュウに締め付けてきて離さないし、今もウネウネ動きながら俺のこと刺激してきてるじゃん。なぁ……そんなに俺のことイかせたいの?」 「ちがっ……、俺、そんなことやってないっ」 「やってるって。あ、ほら。今もギューって締め付けて。なんだろ、体の相性合うのかな。今までセックスした中で、お前が一番最高だわ」  吐息混じりに囁きながら、トントンと腰を動かす。ナカのチンコがさらに奥へと進み、俺を絶頂に駆り立てる。 「あ、待って、そんなっ」 「やだ、待てない」  友人は一気に俺を押し倒すと、そのまま噛みつくようなキスをした。  舌で唇をこじ開けて、口内を縦横無尽に貪る。  初めてのキスが酒臭いなんてロマンもクソもねぇ。……でもこれも俺ららしくて、なんかいいなと思った。  ディープキスをしながらも、友人の腰は止まらない。セックスを覚えたてのガキみたいに、ガンガン腰を振るってくる。  合間あいまに聞こえる、切なげな吐息と小さな喘ぎ声。パタパタと降りそそぐ汗。  獣のような鋭い眼差しに射られて、体の奥に籠もった熱が弾けそうになる。 「ぅっ、あっ……いいっ、すげ、いいっ!」 「ん、はぁっ、いいって、どこが、だよっ」 「奥っ、あぁっ、イきそっ……あぁぁっ」 「イっていいぞ。俺も、もうっ」 「あっ、まえっ、前も、触って!」  いつも後ろの刺激だけじゃイったことがない。前も扱いてくれないと、燻った熱を解放できないのだ。  友人は俺の要求どおり、片手で俺のチンコを擦ってくれた。  チンコはすでに、壊れた蛇口のように先走りをダラダラ溢れさせ、扱くたびにグジュグジュと卑猥な水音が立つ。後ろからも当然ローションに塗れたチンコが出入りする音が、姦しいほどジュボジュボしていて。 「あっひぃっ! やばっ、あぁぁっ、イくぅっ!!」 「あぁ、イっちまえ。俺も、もうっ……」 「ナカ……俺のナカでっ!!」  ゴム越しでもいい。ナカでイってほしい……その願いをヤツは叶えてくれた。  俺の体をこれまでにないほど力強く抱きしめると、最奥めがけて射精したのだ。 「うっ……!」  色気をたっぷりと含んだ呻き声を聞いた瞬間、俺のチンコがドプリと白濁を吹き出した。  お互いに二度、三度痙攣しながら、欲を吐き出していく。  いつもなら吐精と同時に、全ての熱が急激に失われていくはずが……今日は全くその気配がない。蕩けた思考がさらなる熱が欲しいと求めている。  好きな男とするセックスが、こんなにも自分を満たしてくれるものだったとは思わなかった。  はぁはぁと吐き出される荒い息が整ったころ、友人がポツリと呟いた。 「あー……やっべぇ」  何がやばいんだ? 嫌な予感に心臓がトクリと跳ねる。 「夢で見たのと全然違う」 「……どんなふうに?」  俺とのセックスは、やっぱりいまいちだったなんて言うんじゃ……。  シーツを握りしめたままの手に力が入る。 「それがさ」  友人の言葉が、死刑宣告のように聞こえた。  けれど。 「夢の百倍くらい気持ちよかった」 「……へっ?」 「やっべぇ、マジではまりそうだわー」  友人はそう言って、俺の胸に顔を埋めながらポソリと呟いた。よく見れば、耳が真っ赤に染まっている。 「……お前、ノンケじゃん」 「そうなんだよ。そうなんだけどさ……でも、こんなん知ったらもう戻れねぇって……」  今まで食わず嫌いだったけど、男同士もいいもんだな、なんてヘラリと笑う友人を見て、思わず「ばーか」と呟いた。  胸が詰まって、それ以上は言葉にならなかった。 **********  セックスをしたあとも、俺たちの友情は続いた。  仕事帰りに飯を食ったり、休みの日は遊びに行ったり。以前となんら変わることのない日常が戻ってきた。  ただ一つだけ……それに加わったことがある。  それは男同士のセックスにはまった友人がちょいちょい誘ってくるようになり、何度も体を重ねるようになったこと。  ただの友人がセフレに昇格。  正直言うと、そんな状況に満足してはいないのだが……まぁ、こいつがほかの女や男に盗られるよりは全然まし。  俺を求めてくれているうちは、それで充分としようじゃないか。  なーんて達観していた俺は、友人が本気で俺と付き合おうと考えていたなんてことは、ちっとも気付いていなくて。  八年間ずっと秘めていた想いが成就するまで、あともう少し……。

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