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第10話 「勇者と魔王、出逢う」
木々に隠れた小さな洞窟に身を潜め、俺は目隠しの魔法陣を入り口に書いておいた。こうすればもうこの洞窟は誰にも見つからない、はず。
あとは火を起こして、暖かくしないと。
「……どうしよう」
この人、確かに勇者なんだよな。
彼の格好。完全に勇者の初期装備だ。まさか本当に会えるなんて思ってなかった。心の準備が出来てないんですけど。
それにしても、コイツ一人なのか? パーティは? 最初の段階でもう一人仲間になるキャラがいたはずなのに。
それに見た感じ剣以外何も持ってない。回復薬くらい持ってないのかよ。それとも使い切ったのかな。一応解毒の魔法はかけたけど、俺は回復魔法は残念ながら覚えてない。よく見れば体中傷だらけだ。もしかしてこの辺にモンスター一匹もいなかったのって、コイツが倒したから?
なんでたった一人でそんなこと?
クラッドの記憶を頼りに傷の手当てに使えそうな薬草を拾って、包帯代わりに体に貼ってはみたけど効くのかな。
勇者。こんな形で会うことになるとは思わなかったけど、これからどうしよう。いま俺に出来る限りの応急処置はしたから、もうやれることはないんだけどさ。かといって放っておくのも、なんかな。城に戻った後もコイツのことが心配で何も手に付かなくなりそうだし。
でも目が覚めちゃったら俺のことまた倒そうとするだろうし。そうなったらさすがに俺も戦わないとダメだよな。いや逃げるしかないか。
でも魔王である俺が手負いの勇者から逃げるってマヌケじゃないか。
けが人を放っておきたくないし、もう少しだけ様子見するか。
この勇者、一体何の目的があってこの森でモンスター退治なんかしていたんだろう。ゲームでそんなクエストはなかったし、コイツ個人の行動なんだろうけど。単純にレベル上げとかだろうか。そもそも、レベルって概念は存在するのか。ゲームならメニュー画面で確認できるけど、ここはもうゲームじゃない。そういう目に見えないものを認識することはできない。
よく分からないな、この勇者の考えは。
「……っ、ぐ……」
「い、痛むのか? えっと、どうしよう。薬草ってこのままじゃダメだったのかな。ちゃんと煎じたりするべきだったか? ゲームみたいにアイテムを選択して使うとかじゃないからなぁ……」
クラッドの記憶にも薬草の使い方はなかった。コイツ、治癒能力高いから怪我しても放っておくことが多かったみたいだし、リドが配下に加わってからは治療は全部任せっきりだったらしい。
困ったな。魘されてるみたいだし、このまま死なれても嫌だ。どうせ戦わなきゃいけないなら、ちゃんとラスボスとして魔王城で最終決戦をしたいからな。格好もつかないし。
「……ぐっ、う……ま、魔物……!?」
痛みで目を覚ました勇者が俺に気付いた。
でも傷のせいで起き上がれず、立ち上がろうとしたがすぐに倒れてしまった。
「ね、寝てなきゃダメだ。お前、傷だらけなんだから。一応解毒魔法はかけたから……」
「なぜ……魔物、が……」
「いいから、大人しくして。俺は、お前と戦う気はない」
「なんの、つもり、だ……! 魔物が、人間を助けるなんて……」
「……魔物、じゃない。俺がお前を助けたいだけだ」
「……」
勇者は諦めたのか、大人しく地面に横たわった。
よかった。こんなところで最終バトルとかつまらないしな。
「……お前、なんでこんなところに?」
「……」
「一人で魔物退治とか危ないだろ。仲間は?」
「魔物に心配されたくない」
「……その魔物に介抱されてるくせに」
バツが悪いのか、勇者はそっぽ向いた。
なんか、ゲームで見る勇者とは全然違うな。見た目はそのままだけど、ぶっきらぼうな感じだし。
「お前は、勇者……なんだろ? それなのに、なんでこんな場所で一人で戦ってるんだ」
「……うるさい」
「ちゃんと仲間と、装備もちゃんと整えないと死んじゃうぞ」
「魔物が、なんで俺の心配してるんだよ……」
「あー、それもそうか……」
ついプレイヤー目線で心配してしまった。
勇者が強くなったら困るのこっちなのにな。やっぱり俺、勇者のこと好きだからつい気にかけちゃう。それじゃあダメなのに。
「……変なやつ、だな……魔物っぽくない」
「……お前も、勇者っぽくない」
「当り前だ……いきなり今日から勇者だ、なんて言われていきなり勇者らしくなれるかよ……」
「まぁ、そうかもしれないけど」
なんか、勇者にも勇者なりに悩みがあるんだろうな。
魔王である俺はその悩みの根源なんだろうけど。俺が魔王だってことには気づかれてないみたいだし、黙っておくのがいいよな。
「……お前、なんで俺を助ける」
「え?」
「魔物は、人間の敵だ……魔物にとっても、人間は敵だろ……」
「……そう、だろうけど……」
確かにそうだけど、でも俺はそんな理由だけで戦えない。
それに。
「……言っただろ。魔物だからじゃない、って。その他大勢の考えと、俺の考えが一緒だとは限らないんだ」
「……」
「これは、俺個人の気持ちの問題だ。一般論で決めつけるなよ」
「…………やっぱり、変なやつだな」
勇者は目を閉じて、そのまま眠りについた。
さっきまでと違って表情は柔らかい。痛みは引いたんだろうか。
少し休めば自分で回復も使えるようになるはずだ。勇者は初期状態で回復魔法を覚えてたはずだし。
俺は勇者を起こさないようにそっと洞窟から抜け出し、魔王城に戻ることにした。さすがにもう戻っておかないと、俺が魔王城にいないことに気付いたらリドがメチャクチャ心配するだろうからな。
それじゃ、さようならだ、勇者。
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