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第22話 「勇者と一緒にダンジョン攻略①」

 こんな難易度の高いダンジョンに一人で挑む馬鹿は誰かと思えば、まさかの勇者様とは、さすがに驚きを隠せない。  俺がここにいることに向こうも驚いているみたいだけど、この状況は少しマズいな。今更かもしれないけど、俺はとりあえず気配を抑えておいた。 「……イオリ、何故ここに?」 「お、お前こそ……ここは一人でクリアできるような場所じゃないぞ」 「すまない……この場所にある宝玉を手に入れに来たんだが……」 「だから仲間作れって言ったのに。ここはモンスターが出ない代わりにトラップや呪いがメチャクチャ張り巡らされているんだぞ」  むしろ、ここまでよく辿り着けたものだよ。普通なら死んでいてもおかしくない。現に俺はゲームで何回も死んだ。心折れるかと思ったよ。  てゆうか、今の勇者のレベルでここを攻略するのは相当無茶だ。 「引き返せ。もうボロボロじゃねーか」 「それは出来ない。ここまで来て諦めることは……」 「そうじゃなくて、仲間を見つけてもう一回やり直せって言ってんだよ」 「俺は、仲間は……」 「面倒とか言ってる場合かよ。お前、死にかけたんだぞ」 「……そう、だけど……」  頑なに仲間を作ろうとしない。そんなにお前一人で魔王と戦いのか。そういうのは周回プレイが出来なきゃ無理だって。現実は一周しか出来ないんだから、諦めろ。ゲームじゃないんだからトロフィー収集とかないだろ。  このまま放っておいてもコイツ一人で先に進んじゃいそうだし、トラップに引っかかって死んじゃうかもしれない。  さすがにこんな人の近寄らない場所で勇者に死なれたら困る。毒沼に落ちたら死体も残らないし、そんな勇者の最後は俺が嫌だ。 「……ったく、仕方ないな……」  俺はため息をつき、覚えたての魔法を試すことにした。  元の魔王の姿に戻れなかった時のためにリドに教わった変化の魔法。  イメージするのは、人間の姿。もし他に冒険者が入ってきたときに見られても問題ないような普通の人間。  俺はそのイメージを構築させ、魔力を体に纏いながらエルの前へと移動した。 「……イ、オリ?」 「……っ、と。ちゃんと変わったかな」  俺は自分の両手や体を見た。体に感じる重さも違う。髪の毛の長さも、服装も、全部変わった。変化成功だな。  顔は見えないから確認しようがないけど、俺は前世での俺、一之瀬伊織の姿をイメージした。一番見慣れた顔だから変化しやすいと思って元の自分の姿にしたけど、この世界で高校の制服は不似合いだったな。でも自分をイメージしたら自然とこうなってしまった。 「本当に、イオリなんだな」 「魔物の姿だと誰かに見られたとき都合悪いからな。俺もここの宝玉に用があるんだ。その用事が済んだらすぐにお前にくれてやるから、さっさと行くぞ」 「あ、ああ……それにしても、本当に普通の人間のようだな。でもその恰好は?」 「気にするな。遠い世界の正装だ」 「そうなのか……でも、よく似合ってる」 「そりゃどうも」  制服なんて誰でも似合うように出来てるんだよ。普通のブレザーだしな。  ただ、こんなダンジョンで制服って物凄く違和感。どう見ても浮いてるよな。  でも、この目線や手足の感じは懐かしい。しっくりくるな。 「てゆうか、お前はなんで無茶して宝玉なんか取りに来たんだよ」  先に進みながら、俺はエルに聞いてみた。  どう見ても推奨レベルに達してないし、今来なきゃいけないような理由もないと思うんだけどな。 「……ここにある宝玉を使えば、強い防具を作れると聞いて来たんだ」  確かにここの宝玉は勇者専用装備を作るのに必須アイテムだけど、今じゃなくないか。ゲームだったら中盤くらいに来る場所だぞ。  その宝玉で鍛えた防具はその者の潜在能力を引き出してくれる。つまりはステータスがメチャクチャ上がるわけだけど。 「そんな急ぐことなくないか」 「いつでも勇者は強くないといけないんだ。その辺の魔物に苦戦しているようでは、みんなの希望にはなれない」 「……無茶して希望が潰えたら意味ないだろ」 「そうだな……イオリにはまた助けられてしまった。借りが出来たな」 「いいよ、そんなの」  別に恩を着せるために助けたわけじゃないんだ。  そんなことより、もう無茶なことしないでさっさと仲間でも作ってほしいもんだな。そうすれば俺のことなんかもう気にかけてられないだろうし。 「それより、もうすぐ最深部だ」 「ああ」  二人で協力してトラップを突破し、目的の場所へと到達した。  一面が水晶に囲まれた、まるで鍾乳洞のような神秘的な場所。この奥にある祠にある幻の水晶。 「……美しい」 「ああ。綺麗な場所だな……実際に見てみると全然違う」 「宝玉は、あの祠にあるはずだ」 「ああ」  そういえば何も考えずに来ちゃったけど、もしここで俺が魔王の姿に戻っちゃったらどうしよう。どうにか誤魔化せるかな。  でもここまで来たら引き下がれない。俺はその水晶にそっと手を触れてみることにした。 「……何も、ない?」 「イオリはそれで何がしたかったんだ?」 「えっと……まぁ色々とあって」  言い訳が思いつかなくて適当に応えたけど、苦しいな。  元の姿に戻りたいなんて言っても仕方ないし。 「……っ? おい、イオリ!」 「え? っうわ!!」  いきなり水晶が光りだして、俺たち二人を照らした。  眩しい。目を開けていられない。  もしかして、本当に元に戻れるのか?  俺はうっすら目を開けて、自分の姿を確認した。でも、何も変わってない。一之瀬伊織のままだ。  なんだ、やっぱり無駄だったのか。 「おい、エル。大丈夫、か……?」  隣に目を向けると、そこにいたのはエルだけどエルじゃない誰かがいた。  俺と同じ制服。でも知らない。誰だ。  もしかして、もう一人のコイツなのか。俺が魔王クラッドのもう一人の自分であったように。 「な、なんだこれ……ここはどこだ!?」 「っ! お前……」  今ここにいるのは現世の世界での、もう一人のエルなのか。  どうしよう。今の俺も一之瀬伊織のままだ。今のコイツがどういう状況でここにいるのか分からないけど、どう説明すればいいんだよ。 「俺、授業中に居眠りして……じゃあこれ夢か?」 「……」 「って、お前……一之瀬?」 「……っ!?」 「なんでお前が夢の中にいるんだ……?」 「……お前、俺のこと知ってるのか」 「は? そりゃあ知って……」  そうか。お前は近くにいたのか。でも俺は気付けなかった。クラスメイトの名前も顔もまともに覚えちゃいないんだ。  前世でちゃんと出会えていたら、何か変わったのだろうか。いや、そんな訳ないか。あの時の俺は自分の身を守ることで精一杯。周りのことなんか見てる余裕なんて微塵もなかった。  水晶の光が弱まっていく。  エルも元の勇者の姿に戻っていた。もう一人のアイツはきっと夢だと思ってる。目が覚めたら忘れてるだろうな。  会えて、嬉しかったよ。

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