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第34話 「勝機を掴むために」

 先代の魔王は勇者に負けている。  リドから話を聞いて、余計に負けられない気持ちが強くなった。  正直、仲間も作らないぼっち勇者相手なら負けないと思っていたけど、少し対策を考えた方がいいかもしれない。  また書斎で調べ物しようかな。過去の戦いについて何か残ってれば参考になるかもしれないからな。善は急げだ。今から行こう。 ーーー  書斎に来てみたはいいけど、どこから見ていけばいいだろ。  片っ端から探していったら何時間かかるんだって話だぞ。先にリドから聞いておけばよかった。アイツならどこに何があるか把握してそうだし。 「まぁいいや。適当に見てこ」  時間ならあるし、魔導書見るのも勉強になるもんな。  俺は本棚から適当に数冊取って、読みふけることにした。  覚えられそうな魔法があれば知っておこう。  あ、これなんかいいな。物体の転移魔法。遠く離れた場所にあるものを移動させられる。人を動物に変える魔法なんてのもあるのか。  ゲーム中に出てこなかった魔法なんてのもいっぱいあるんだな。水をお酒に変えるとか何に使うんだろ。これは魔法っていうより錬金術みたいだけど。あ、俺もう100歳超えてるんだからお酒飲めるじゃん。  こっちの本はピュールの料理本みたいだな。自分で挿絵描いてるのか、これ。メッチャ美味しそうな料理の絵がある。今度何かリクエストしようかな。 「……ん?」  真っ白で何も書かれてない表紙の本がある。  適当にペラペラ捲ってみると、そこには勇者のことについて記されていた。 「……これ、先代の魔王が書いたものか?」  でもクラッドの記憶にはこの本のことなんてない。ということは、クラッドも知らない何かが書かれてるのかも。  俺は姿勢を正して、その本を読み進めていった。  勇者とは、人類に災いが訪れし時に目覚める者。  魔物を滅ぼす力、神より加護を与えられた聖なる剣ガグンラーズに選ばれたものを勇者と呼ぶ。  魔物はこの神剣で倒されない限り、消滅することはない。神剣さえ手に入れれば魔物を殺せるものはいなくなる。  だが持ち主が死なない限り、神剣は主の元へと戻ってしまう。ただ奪うだけでは駄目だ。確実に神剣を奪うためには勇者を倒す以外に方法はない。 「……神剣さえ手に入れれば、もう人間は魔物に手を出せなくなる……」  ただ勇者を倒せればいいと思っていたが、重要なのは神剣の方だったのか。  勇者を倒した後、神剣をこの城に封じる。そうすればもう、魔物は人間に脅える必要はない。  神剣を封じる方法をリドやフォルグに相談しておいた方がいいかもしれないな。もしエルを殺した後に次の勇者が目覚めて神剣が消えたら困る。  逆に言えば、神剣が勇者を選ぶというのなら、その神剣を魔王城に封じることが出来れば次の勇者は生まれない。 「……これだ」  この方法なら、確実に俺たち魔族の勝利だ。  それにこの剣に斬られたりしなければ、俺は死なない。どうにか剣を勇者の手から放せればいい。最悪、腕を切り落とす。 「他にはなにか書いてないか……?」  もっと有力な情報がないか調べておいて損はない。俺は隅から隅まで読んでいった。  だけど書かれているのは先代の勇者の仲間のこと。当時の魔物達の戦況など。  今の勇者は仲間もいないから関係ないな。後衛がいない分、先代魔王より苦戦はしないはずだ。  やっぱり神剣が勝敗を決めるんだな。  神剣は普段、勇者の体の中に封じられてる。奪えるのは、この魔王城でのラストバトルの間しかチャンスはない。  アイツも本気で来る。一瞬の油断が命取りだろう。情に流されるなよ、俺。俺は魔王なんだ。魔王クラッド・オードエインドなんだ。  一之瀬伊織は死んだ。エルが想うイオリは最初からいない。とっくに死んでる。 「大丈夫だ、クラッド。俺はやれる」  この世界に来て、いじめられっ子だった俺が魔王になって、頼もしい仲間が出来て、憧れの勇者に会えた。  それだけでなく、その勇者に一之瀬伊織を知ってもらえた。伊織を好きになってもらえて、その腕に抱かれた。これだけでもう十分、満足だ。一之瀬伊織はもう、何の未練もない。  もう、何も。

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