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番外編 「諦めかけた夢を手放さないように。」※

 父さんと母さんは、夜まで帰ってこない。  それまで、俺と蓮は2人きり。  俺たちは、ベッドに横たわって繰り返し唇を重ねていた。  もう二度とこんなこと出来ないと思ってた。  もう二度と、触れることはないと思ってた。  それが今、目の前にいる。  もう何の隔たりもなく、ただただ1人の男として、愛することが出来る。 「……ん、ふぅ……」 「……っ、すげぇ……夢みたいだ」 「夢……?」 「だって、あの洞窟での最後……俺は夢で見てたけど、もう二度とお前を抱けないんだって悲しかったんだ。あの時、伊織が去っていった後、ずっと苦しかった」  蓮は俺をキツく抱きしめた。  本当にあれが最後だと思っていた。勇者に俺が魔王だって正体をバラして、最後の戦いがあった。  お前を、勇者を殺すつもりだったから、もう二度と会うことはないと思っていたのにな。 「ナヴォイス国で助っ人を頼まれて、どう戦おうかなんでいたら、君が現れた」 「ナヴォイス?」 「お前、国の名前も覚えてないのかよ。戦をしてた国の一つだよ」 「ゲームでも出てこなかったし、クラッドも知らないことは俺も知らないんだよ」  それに、国の名前なんて知ったところで意味なかったし。今更知ったところでどうしようもないし。 「まぁ、とにかく。そこで伊織が現れたときは驚きもしたけど、魔王だって納得したんだよ」 「え?」 「伊織、完全に気配や魔力を遮断してただろ。おまけに洞窟に張った魔法陣の効果を考えても、その辺の魔物とは全く違っていた。ここまで出来るのは相当な力を持った魔物だ。それに何より……勇者として、勘付かない訳ないんだよ」 「分かってて、お前は……」 「なんでだろうね。俺の意識が反映されていたのか分からないけど、出逢った時から伊織のことは気になってたよ。この場合、一目惚れって言葉が正しいのか微妙なところだけど……まぁそれでなくても、勇者として、人間として、価値観を壊してくれた伊織のことを意識するようになった」 「……蓮」 「さすが魔王だったな」  価値観を、壊す。  そうか。俺は単純に勇者を助けたかっただけだったけど、それが結果として勇者の認識を変えたのか。  俺は、俺に出来る形で世界の在り方を変えられたのか。 「……それで、お前は?」 「え?」 「伊織は、勇者が好きだったんだろ。蓮を好きになれる?」 「まだ言うのかよ」 「そりゃあ、ちゃんと聞いておかないと先に進めないし……」 「……確かに、俺自身がお前と会うのは目を覚ましてからだったけど……あの日、俺を助けてくれて、ずっと目が覚めるのを待っててくれたのはお前だろ。あの水晶でお前のことを見た時から、エルと蓮は同じ人物だと俺の中で思ってたし……お前に会いたいと思ってたよ」 「俺に……?」 「もっと早く、お前に会えてたら、何か変わってたのかなって……本当は出逢ってたみたいだけど」  別に、蓮にエルの面影を重ねてるワケじゃない。  俺は俺自身として、蓮を好きだと思ってる。  この世界でお前に会いたいと思って本気で泣いたんだ。そんな日は訪れないと思って、どれほど胸を痛めたか。  それが今、こうして一緒にいられる。願った未来が、目の前にいるんだ。 「俺が会いたいと思ったのは、確かにお前なんだよ」  今俺が言えるのは、それだけだ。  蓮がエルだから好きなんじゃない。エルのことも確かに好きだし、憧れだけど、それとは別に、お前への好意もちゃんとある。  この気持ちに嘘はない。どっちが上とか、そんなものないよ。 「うん……うん、ありがとう。俺も伊織に会いたかった。目を覚ましてくれてありがとう」 「ああ……」  俺は蓮に唇を重ねた。  どうか、信じてほしい。この気持ちを。 「じゃあ、もう我慢しない」 「え、うわっ!」  蓮が体を起こし、俺の上に覆い被さった。  我慢してたのか。いや、俺だってそういう雰囲気を予想して誘ったんだけど、やっぱり慣れないな。  この世界の俺の体は経験ないんだぞ。未経験だぞ。そりゃあ緊張もするだろ。 「……」 「……蓮?」  蓮が俺の上に乗ったまま動かない。何してんだ、コイツ。 「いや、初めてやったとき思い出しちゃって……」 「初めて、って……あの宿の?」 「そう。あの時の俺にとっては夢だったのに、お前を抱いた感覚とか全部伝わってさ……起きたときマジでヤバかったんだぞ。ジャージも布団もぐっちゃぐちゃでさ」 「そ、そうか……」 「二回目なんかもっと酷かったぞ。親にバレないように洗濯するの大変だったんだからな」  言うな、そういうこと。改めて言われるとこっちも恥ずかしいんだ。  てゆうか、そういう話ならあの時の俺の体ってどうなってたんだ。大丈夫だったのかな。なんか心配になってきた。 「……お、俺の、伊織の体でも、その、大丈夫かよ」  向こうの世界の俺と違って、今の俺は普通の男子高校生だぞ。地味だし、ひょろいし、見ても面白くないだろ。 「アホか。俺は伊織が好きなんだぞ。こうしてるだけでメッチャ興奮してんだ」 「っ!」  蓮が腰を押し当ててきた。確かに、興奮してる。  ゴリゴリと昂ったそれは、俺に対して欲情してる証拠ってことだよな。  良かった。俺で、大丈夫なんだな。  それだけで満足してしまいそうになる。  俺達は夢中でキスをしながら、乱暴に服を脱ぎ捨てた。  直接触れ合う肌。少し汗ばんだ蓮の熱を感じる。  そういえば、向こうの世界では2回とも服を着たままだったな。  肌で抱き合うの、こんなに気持ちいいんだな。このままずっと抱きしめてて欲しくなる。離さないでほしい。  この熱で、溶けてしまいたい。 「……ん、ぁ」 「伊織……」  蓮の唇が、俺の体中に降り注ぐ。  自分のものだと主張するように、赤い痕を全身に付けていく。  蓮が肌に吸い付く度に、体が反応する。心臓が跳ね上がって、一つ一つ熱を貯めていくみたいだ。 「ゃ、あっ……あ、あ……」 「伊織、可愛い……」 「ば、か……」  なんでそう恥ずかしい台詞を簡単に言えるんだよ。可愛い訳あるか。  余裕のない俺は、蓮に翻弄されてばかりだ。だけどそれで興奮してるんだから、俺の体はそうされることを望んでいるってことだろう。  蓮の手が、俺のモノに触れる。緩く勃ち上がったそれを握られ、体が小刻みに震える。 「っ、あ、あっ!」 「痛くない?」 「だ、いじょ、ぶ……きもち、い……」  俺の反応を見ながら、蓮が手を動かす。  この体は初めてのはずなのに、前に抱かれた時の感覚を覚えてる。早く欲しくて、体の奥が疼いてる。 「伊織、腰が揺れてる……それ、すげぇエロい……」 「う、っせぇ……」 「たまんねーな、その顔……」  蓮は俺の足を持ち上げ、その間に顔を埋めた。  俺のモノが蓮の口の中に飲み込まれる。温かくて、ぬるりとした感触に体がビクビク震える。  舌が。唇が。喉が。俺のを愛部する。今まで感じたことのない感触に包まれて、だらしない声が抑えきれなくなる。  ヤバい。頭、溶けてなくなりそう。 「あ、あっ、あぁあ、あっ! れ、んっ!」  俺のを咥えながら、蓮の指が後孔に触れる。  固く閉ざされたそこを蓮の指と舌が解していく。  俺の体を思って慣らしてくれてるのは分かる。でも奥が疼いて仕方ない。もう欲しい。我慢できない。 「も、いい、から……」 「でも……」 「いい、から……蓮の、挿れて……?」 「っ、それ反則……」  蓮は顔を離し、濡れた口周りを拭う。  互いの腰を近づけ、蓮の昂ったそれを後孔に当てる。  熱いそれが、ゆっくりと入っていく。  さすがにこの体は初めてだから、その大きさに多少の痛みと圧迫感はある。でもそれ以上に、この熱を求めてる。溢れ出る快楽が、全身に満ちてる。 「はっ、あっ、ああ、あ……!」 「っ、く……きつ……伊織、大丈夫?」 「んっ、へ、いき、だから……もっと……」 「煽んないでよ……かなりヤバいんだから」  ゆっくりと蓮が腰を動かす。  奥に当たる度に頭の中に電気が走るみたいだ。  気持ちいい。  理性なんて吹っ飛ぶ。蓮のこと以外、考えられなくなる。 「あっ、あ、ああ、んっ、あ!」 「す、げ……メッチャ気持ちいい……腰、止まんない……!」 「い、いっ、もっと、して……!」 「……っとに、どうなっても知らないよ……!」  蓮が俺の腰を掴み、律動を激しくした。  ヤバい。目が、チカチカする。声も抑えられない。何喋ってんのか分からなくなる。 「いいっ、きもち、いっ、ん、あっ! あっあっ! も、イ、く……イくっ」 「っ! く、っ……伊織、もう……!」 「ん、っ! おれ、も、イッちゃ、う!」  さらに奥を突かれ、俺は絶頂に達した。それを追うように蓮もナカで自身のそれを震わせて欲を吐き出した。  一気に襲い来る脱力感。俺達は肩で息をしながら、弱々しく抱き合った。 「……体、平気?」 「ん……だいじょーぶ……」  声が掠れてる。  体中、汗まみれだ。  元々運動不足の俺の体は、もう悲鳴をあげてる。病院でリハビリしたとはいえ、さすがにキツイ。  でも、それ以上の幸福感。  満たされた感覚で、胸がいっぱいだ。 「終わりじゃ、なかったな……」 「そうだよ。これは、伊織とクラッド、2人が作った未来だよ」 「お前が、俺を助けてくれたおかげだろ。さすがに電車に引かれてたら、入れ替わったクラッドの魂まで消えていたかもしれない……ありがとう……」  偶然か、必然か。  いくつも重なり合ったものが、今を築いてくれた。  一度諦めた想いを、繋いでくれた。  だから俺は、生きるんだ。  最後まで。

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