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第11話 【再び出会えた喜び】

 宿屋で宿泊手続きを済ませ、俺達は二階の一番奥の部屋を案内された。  小さな村だと思ってあまり期待はしてなかったけど、内装は綺麗だし部屋も普通のホテルみたいにしっかりしてる。  二つ並んだベッドに腰を下ろし、俺は変化の魔法を解いた。 「伊織、お疲れ様」 「明日はお前だからな」 「任せてよ」 「俺が言う方向を真っ直ぐ進むんだぞ。余計なことはするなよ」 「大丈夫だって」  ちょっと心配だけど、仕方ない。蓮のやる気に水を差すのも悪いしな。方向が狂ったら俺が修正してやらないと。 「そうだ。蓮、腹減ってないか?」 「んー、少し」 「じゃあ食堂行くか。さっき受付で夕飯用意してあるって言ってたし」 「うん。じゃあ行こう」  俺は再び人間の姿に変わり、部屋を出た。  階段を降りて食堂へ向かうと、良い匂いがしてきた。何だろう、シチューみたいな匂いだ。  食堂に入るとテーブル席を案内してくれた。テキパキと食事が用意されていく。  大きめのお肉が入ったシチューに、焼きたてのパン。スープを一口食べると、溶けた玉ねぎの甘さが口に広がる。なんていうか、ホッとする味だ。 「美味しい……」 「うん。お肉も口の中で溶けていくよ。おかわりってしていいのかな」 「良いんじゃないか。好きなだけ食えよ、明日はお前が走るんだから」  蓮は吸い込むようにドンドン飯を平らげていく。元の世界でもそうだったけど、よく食うな。俺は食が細い方だから見てて気持ちがいい。 「ん?」  また視線を感じて、俺は食堂のドアに目を向けた。  この村に来た時に見た子供だ。今度はもう一人一緒にいる。この宿のオーナーの子供なのかな。  それにしても、どこかで見たことがあるような。  子供と目が合うと、二人は顔を見合せた俺たちの方へと駆け寄ってきた。  黒髪の子と、白髪の子供。対照的な二人だな。 「なぁ、こっちの兄ちゃんって勇者なのか?」 「え!? な、なんでそう思うんだ?」  黒髪の子が連を指差して言った。  俺は慌てて周りを見渡したけど他に客はいないみたいだ。  当人である蓮は平然と飯を食い続けてる。 「だって、絵本で見た勇者に似てるし!」 「絵本?」 「ああ。これだよ!」  白髪の子が手に持ってる絵本を広げて見せてくれた。  確かにそこに描かれた勇者は、かつてのエイルディオンによく似ている。勇者が居た頃に描かれたのかな。でも千年以上経っても語り継がれてるとは凄いな。 「えーっと、このお兄さんは確かに似てるけど違うんだよ」 「えー、そうなのか?」  勇者が現れた、なんて騒がれたら面倒だしな。子供を騙すようで申し訳ないけど、仕方ない。  シチューを食べ終えた蓮が口元を拭い、子供たちと向かい合った。 「二人はこの宿の子?」 「ううん。俺らは近所に住んでるだけ。兄ちゃんを見掛けて後をつけてきた!」 「でも、もう遅い時間だよ。早く帰らないと親御さんが心配するんじゃない?」 「ちぇ。しゃーねーな。リド、帰ろうぜ」 「え?」  俺はその名前に驚いて声が出た。  リド。そうか、誰かに似てると思ったらこの子。 「リ、ド……君、リドって言うのか?」  白髪の子は小さく頷いた。気が弱いのか、ずっと黒髪の子の服を掴んでる。 「こいつはリンドアード。だからリドって呼んでるんだ。小さい頃から家が隣で友達なんだぞ。俺はクロード! 宿屋の隣にある花屋の子なんだ」  クロードと名乗った少年の顔を見る。  ああ。クラッドだ。二人とも、人間に生まれ変わったのか。  良かった。二人が一緒にいられて、本当に良かった。  俺は耐えきれず、泣き出してしまった。急に泣き出した俺に二人は困ってしまったけど、蓮が優しく俺を抱きしめてくれた。  そして、大丈夫だからと二人を帰るように諭した。  二人だけになった食堂で、俺は蓮の服をキツく掴んで声を押し殺して泣いた。  あの二人にまた会えた。姿形が違くても、間違いなくあの二人だ。  幸せそうに笑ってる二人を見ることが出来て、物凄く嬉しい。 「よかった……」 「うん。また会えて良かったね、伊織」  負けたくないって気持ちがより強くなった。  あの二人の笑顔を曇らせるようなこと、絶対にしたくない。  この世界を守ってくれた二人の魂を、俺は守るんだ。

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