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第2話

***  新郎の高橋敏也(たかはしとしや)と初めて会ったのは今から三か月前――。  彼は私の勤めるリゾートホテルのブライダルサロンに一人でやってきた。新婦の父親で彼の会社の社長にこのホテルで挙式をするように勧められたという。彼の来訪は事前に支配人から伝えられており、その挙式のプランニングを私が請け負うことになった。 「ブライダルプランナーさんが男性って珍しいですね。でも、何だか安心しました」  私はブライダルのみを担当しているわけではないのだが、新婦の父親はうちのホテルの上得意で準備時間が無いにも関わらず結構な規模の披露宴となるということで、企画部チーフの私に白羽の矢が立ったのだ。  高橋敏也は柔らかい雰囲気を持つ背の高い朴訥とした青年だった。自身の勤める一流企業の社長令嬢との婚礼。どんなに上昇志向の強い優男なのだろうと内心思っていた私は、ホッとした笑みを浮かべた彼のその顔に、久しぶりに胸がときめくのを感じた。  だが、残念ながら彼は他人のものになるのが決まっている。このときめきは一時の気の迷いだと封印して、私と彼はにこやかに握手を交わし初回の打ち合わせを終えた。  それから頻繁に私達は話し合いを繰り返した。その中で三回目の打ち合わせでやっと新婦となる彼女を紹介された。招待客への案内状に衣装の決定、当日の料理などと話を進めていったが、彼女は多くの打ち合わせに参加することもなく、来ても自身の結婚式だというのにどこか他人事のような空気を醸し出していた。 「彼女は僕よりも忙しい人なんです。本当は結婚式なんて大仰なことはしたくはなかったみたいで」  申し訳なさそうに謝る彼に、大丈夫ですよ、とは言ったが、この結婚式の行く末に若干の不安を覚えたことを思い出す。

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