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エピローグ

 海に向かう数日前の昼下がり。  一緒にいなかった期間の話をすっかり終えて、僕は読書、晴空はテレビをかけて見ていた。 (なぁ、凪) 「なに?」 なんだか改まって聞こえたから、読書の手を止め、読んでいたページにしおりを挟んで晴空の方を見る。 (俺がここに現れた時さ、貴嶺に抱かれようとしてたじゃん。あれ、本気だっただろ?) 「そうだね」 (だよな~。いくら俺が貴嶺の身体借りてたから、中身俺だからって言っても、外側が嫌いな奴だったらさ、そういう事すんの無理じゃん?て、ずっと考えててさ) 「ずっと考えてたの?」 (うん。だって俺の中では貴嶺は、嫌な事しに来た奴って印象で止まってたから。でもさ、ここにいて分かった。あいついい奴じゃん) 「そうなんだよね…。貴嶺さんもさ、ずっと本家にいて一人で戦ってきたんだなって気づいたら親近感沸いてさ、愛しいな…ってたまに思うようにはなってた。でも僕がずっと晴空に再会する為に頑張ってたのはほんとだよ。僕、ズルイかな…」 (人間だから、そんな時もあんじゃん?それにほら、俺はもう存在してないし、これからの凪と一緒にいてくれるのはあいつだって分かってるから) 「晴空…。お兄ちゃん、カッコよすぎじゃん?」 (気づいたか!そうなんだ兄ちゃんはカッコいいんだ。凪今頃気づいたか~) 「馬鹿だね~。僕の中では晴空はいつも一番カッコ良かったよ」 (お?おぉ、そうか)  テーブルには二つのマグカップ。片方は減らないけれど、お揃いのマグカップが並んで同じ飲み物が入ってる。  凪はその片方を手に取り一口飲んで、また読書に戻った。  晴空もテレビに視線を戻す。  二人、触れられないけど並んで座り、それぞれ別の事をしている空間は居心地が良く、昔に戻った気分を味わえてる、良い空気の昼下がりだった。  

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