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暗黒城(1)
国王クリストフェルが住む「光の王宮」より北に向かって半日余り、険しい山のふもとに王弟ステファン・ラーゲルレーヴが住まう「暗黒城」はある。
白と金を基調とした「光の王宮」に対して、黒い壁と床を持つ北の城は、かつて「黒の離宮」と呼ばれていた。
暗黒城と名を変えたのは、先々代の王の従兄弟だった第十四代ラーゲルレーヴ公爵の居城だった時のことだ。
ボーデン王国の王族は魔族の末裔で、王になる者は強い魔力を持って生まれてくる。他の王族や上級貴族の中にも魔力を持つ者が現れることがあるが、王の力を上回ることはない。
唯一、黒髪のアルファを除いては。
黒髪のアルファは特別だ。王族や貴族のほとんどが明るい髪色を持って生まれてくる中、数十年に一度、漆黒の髪を持つ者が生まれる。魔族は髪色が濃いほど強い魔力を持つ。また、全てにおいて高い能力を有するアルファは、魔力の強さという点においても群を抜いていた。
そのどちらにも当てはまる黒髪のアルファは、王の力をも凌駕する強大な魔力を持つと考えられた。
第十四代ラーゲルレーヴ公爵ヴィクトルは黒髪のアルファだった。そして、実際に桁外れの魔力の持ち主だった。
当時の国王を魔法で殺めて国に災いをもたらしたと言われている。神官たちが「導きの石」から神託を受け、その力を封じるまでの数年間、王として君臨し、人々を支配した。
力を封じられた公爵が幽閉されたのが、黒の離宮「暗黒城」だった。
前国王の第二子として生まれたステファンも黒髪のアルファだ。ステファンが生まれてすぐに王妃が他界し、十年後に国王が斃れると、当時十五歳だった第一王子クリストフェルが新たな王として即位した。
クリストフェルは金色の髪の王で、おだやかな治世を敷くことが期待された。だが、五歳年下の第二王子について、側近たちは存在そのものが不吉だとして、暗黒城に幽閉するよう、新たな王ーーステファンの兄である第十九代ボーデン王国国王クリストフェルに進言した。
新王クリストフェルはそれを受け入れた。
それから十八年の間、ステファン・ラーゲルレーヴは暗黒城に幽閉され、王宮とも俗世間とも離れて暮らしている。
その間、国は確かに平和だった。
「だが、十日ほど前に新たな神託が下ったのだ」
朔の夜明けまでに金色の髪のオメガを差し出せ。さもなくば、光の王が失われるだろうというものだった。
「そこで、フラン。おまえがステファンの番 候補に選ばれた」
城に向かう馬車の中で、カルネウスは時間をかけて、フランにそれらのことを語って聞かせた。
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