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ステファン・ラーゲルレーブ(1)
広場の奥にもう一つ庭があり、その向こうに一際大きな石の建物が建っていた。
マットソンの屋敷とは比べようもないほど巨大な建物だ。
中に入ると、部屋の設 えや調度品も、その価値などわからないフランが見ても立派なものに見えた。黒い石の床はピカピカに磨かれ、壁や柱には細かい彫刻が施されている。天井からはたくさんのシャンデリアが下がり、昼でも日の差さない広大な石の城内を明るく照らしていた。
長い廊下を進み、大きな扉の前まで来るとレンナルトが室内に向かって声をかけた。
「ステファン、妃殿下のお越しだよ」
フランは首を傾げた。自分のほかにも誰か客人がいるのだろうかと、あたりをキョロキョロ見回す。
「入れ」
扉が勝手に開き、レンナルトが「どうぞ」と先を譲る。びくびくしながら、フランは室内に足を踏み入れた。
石の床には濃い色合いの敷物が敷かれていた。焦げ茶色のテーブルとワイン色の長椅子が置かれ、長身の男がゆったりと座っている。
座っていても手足が長く背の高い人だとわかった。硬質な印象の整った顔にかかるのは漆黒の長い髪。瞳の色も黒く深い。金糸と銀糸の刺繍を施した立派な上衣がとても似合っていた。
美しい人だ。
ベッテたちが箱にしまって大事にしている姿絵の騎士を思い出す。非の打ちどころのない美しさに、フランは自分の立場も忘れてぼうっと見惚れてしまった。
心臓がドキドキと騒ぎ始めた。こんなに美しい人を見たのは初めてだった。
しかし、次の瞬間、フランは心臓を凍りつかせた。ステファンが顔をしかめてこう言ったからだ。
「チビすぎるだろ……」
「ステファン!」
レンナルトが咎める。ステファンがため息を吐き、フランは深く傷ついた。
「ご、ごめんなさい。僕……」
自分がなぜ、何に対して謝っているのかわからなかった。
ただ、フランは確かにみすぼらしく、そのせいで目の前にいる美しい人を失望させたのだと思った。
そのことがいたたまれなく、悲しかった。
チビでドジで半人前の厄介者。
おまけにオメガ……。働かせてもらえるだけでありがたいと思えと、毎日のように言われてきた。
きっとフランは厄介払いされたのだ。よくわからないが、マットソンの屋敷にはもう戻れないのに違いない。
「僕、なんでもします。だから……」
「だから?」
「だから、どうか……、僕を、ここにおいてください」
深く頭を下げるとステファンが不思議そうに聞いた。
「おまえ、ここにいたいのか?」
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