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ヒート(3)
「あ、あ……っ、ああ……っ」
長い楔に何度も奥を突かれ、我慢できずに声が漏れる。
「ステファン、ステファン……」
嵐の中の小舟のように翻弄されながら、必死にステファンの名前を呼んだ。
白く霞んだ意識の中で、狂ったように何度も貫かれた。何もわからなくなって、本能のまま抱き合う。
フランもステファンも、ただの獣になっていた。
本当に意識を失ってしまったらしく、いつの間にか眠りに落ちていた。
目を覚ますと、まだ夜だった。隣には死んだように身動きもしないステファンが横たわっている。
「ステファン……?」
不安になって名前を呼ぶと、薄く目を開けたステファンが黙ってフランを抱き寄せた。広い胸に包まれて、少しずつ記憶をたどる。
初めての交わりは想像もつかないほど激しいものだった。ステファンとフランがごちゃまぜになって、どこまでがステファンでどこからがフランなのかもわからなくなった。
狂ったような身体の疼きは消えていて、鈍い痛みと気怠さだけが腰と背中に残っている。
床に投げ捨てられてシーツにはヘンな匂いのする体液がたくさんこびりついていて、それがフランやステファンの中から出たものだと思うと、なぜだか無性にいたたまれない気持ちになった。
あんなふうに、何もわからなくなって欲望に身を任せて、苦しいくらいに上り詰めて吐き出すことは、いいことなのだろうか。
考えると不安で怖い。弾けた瞬間は恍惚となるけれど、終わってしまった今になると、なんだか空しい。
心が置いてけぼりにされたみたいだ。
身体だけヒートの熱を散らして満足していても、そこには大事な何かが欠けている気がした。
「フラン……、どうした?」
「ステファン……」
身体を寄せるとそっと背中を撫でられて、小さな不安の波が凪いでゆく。
黒い瞳がフランを見下ろしていた。髪を撫でられると、もっと気持ちが凪いでゆく。
ステファンの近くにいると安心だった。
ヒートというのは、こういうものだとステファンが吐息のような声で囁く。だから何も気にするなと。
欠けた何かはフラン一人では埋められない。これは、こういうものだ。そう思うことで自分を納得させるしかなかった。
「眠れないのか?」
ステファンがそっと背中を撫で、小さく二つ叩いた。広い胸に頬を押し当てたままフランは首を振った。
目を閉じるとステファンの鼓動が聞こえる。
安心したら、またいつの間にか眠っていた。
最初のヒートはそれで終わりだった。
何日も狭い部屋に閉じこめられたりすることもなかった。そのことにはほっとしたけれど、また三か月後にはあんなふうに、自分でどうにもできない状態になるのだと思うと、気持ちは重かった。
オメガを迷惑がる人がいても、あれでは仕方ないのかもしれない。
――チビでドジで半人前の厄介者。
――おまけにオメガ。
親方の罵る声が胸の奥で響いていた。
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