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宝物(2)

 城に来る時、マットソンの子どものお下がりを着せられてきたフランは、背が伸びてからはステファンやレンナルトの昔の服から着られそうなものを見繕って着ていた。  レンナルトが古着屋で手に入れてきた庶民の服も何枚かあり、フランは特に不満を持っていなかった。  マットソンのところにいた頃は、たくさんの使用人が着古したお下がり一枚につぎを当てながら着ていた。たまに洗濯をするのはいつも夜で、寝巻代わりの下着一枚になって外の井戸で洗っていた。着替えがあるだけで、すごく快適だったのだ。  それなのに、ある日フランの目の前に新品の立派な服が三着も置かれた。 「遅くなったが、やっと出来上がってきたぞ。注文した時より背が伸びているが、少し大きめに頼んでおいたから大丈夫だろう」 「ステファン、これ……?」 「おまえの服だ。いつまでも俺たちのお下がりや、擦り切れた古着を着ているわけにはいかないだろう」 「でも……」  まるで貴族が着るような艶やかな生地に、刺繍の入った豪華な上衣。あまりに立派な服を見つめて、かすかに首を振る。 「なんだ、気に入らなかったか? 一応、好みもあるだろうと思って、三通りの組み合わせで作らせたんだが……」 「そ、そうじゃなくて……。僕、こんな立派な服、着たことなくて……」 「着方がわからなければ、俺が着せてやる」  ステファンは可笑しそうに笑った。  レンナルトもやってきて、「似合いそうじゃない。着てごらんよ」と言って勧める。  フランは言葉もないまま、ステファンの手に任せる形で、その中の一組を身に着けた。 「わぁ、なんだか見違えたなぁ」  レンナルトが感嘆の声を上げた。 「俺の見立てはなかなかだったようだな」  ステファンも満足そうだ。  大きな鏡のある玄関ホールに連れていかれて、そこに映し出された自分の姿を正面から見た。あまりに驚いたフランは、左右をキョロキョロ見回してしまった。目の前の鏡に映っているのが自分だとは、とても信じられなかったのだ。 「これが、僕……?」  瞳の色と同じ明るい空色の上衣には金糸や銀糸も使われた美しい刺繍が施されている。白いシャツの襟はたっぷりの布地でひらひらに作られているし、金色のベストは光沢のある模様入りだった。上衣と同色のキュロットや白い絹のタイツも丈がピッタリで、いかにも粋に見える。 「絵本の中の王子様みたいだ……」 「自分で言うのか」  ステファンに笑われたけれど、本当にそう思ってしまった。 「よく似合っている」  ほかの二着はグリーンの上衣に金茶のキュロットのセットと白地に金糸の刺繍が美しい上下のセットで、そのどちらも着せ替え人形のように着せられて、二人に褒められた。  そんなことをして三人で盛り上がっていると、城の表側から馬のいななきと車輪がきしむ音が聞こえた。 「誰か来た?」 「珍しいな……」  レンナルトが表玄関に向かった。すぐに戻ってきてステファンに告げる。 「ボリス・ネルダールだ」 「ネルダール?」  眉間に皺を寄せるステファンに、レンナルトは言った。 「新しいオメガを連れてきたって言ってる」

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