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桜が舞う四月のある日。 休み時間で賑やかな教室。 窓際の席に座り、外を眺めている君がいる。 君の視線の先にはきっとあの子が居るのだろう。 そう思わせるほど、君の視線は熱を帯びていて。 それはもう恋する男子そのものだった。 「啓介(けいすけ)」 はっきりと、君の名を呼ぶ。 俺の声が届くように。 「修一(しゅういち)、どうしたの?」 こちらに目を向ける君。 「国語の教科書忘れちゃって。よかったら貸してくんね?」 そう言って君に近づく。 君の席まで来ると、案の定、中庭が見えてしまって。 友達と談笑をしているあの子が目に入る。 「まだあいつのこと好きなん?」 聞かなくてもわかること。 「修一には関係ないでしょ」 あるよ。だって俺、お前の事すきだし。 そう言えたらどんなに楽なんだろう。 幼稚園から高校まで、ずっと一緒だった。 遊ぶのも、怒られるのも、いつだって一緒だった。 気づいたら好きになっていた。どうしようもないくらいに。 「はい、これ」 そう言われて渡された教科書。 クラスが別々になってからは、一緒に居る時間が減った。 だからこうして、俺は何かを忘れたフリをして、啓介に借りに来る。 本当は忘れ物なんかしていないのに。 「サンキュ」 「うん」 そう言って、また啓介は窓の外を見た。 君の目に、あの子はどう映っているんだろう。 どうして俺じゃないんだろう。 溢れて来る気持ちに蓋をして、俺は啓介に背を向け教室を出る。 借りた教科書を大切に抱くことしか、今の俺にはできなかった。

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