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3.口説く宣言をされまして

 朝も昼も部屋からは出られなかった。外へ食べに出てもよかったが、昨日リックの昇進祝いで使ってしまったから懐が心許ない。こんなことならおごってやるんじゃなかったと後悔した。 「……なんで俺なんだよ」  すきっ腹を抱えて、ベッドに転がっていた。  なんで俺の身体はこんなに敏感なのだろう。確かに小さい頃からくすぐったがりやで、よくみんなにからかわれてはいた。くすぐられるのが嫌なら俺がくすぐり返せばいいのだと、かなり徹底的にくすぐり返していたらやられなくはなったが、それは根本的な解決には至らなかった。  からかわれなくなる為に身体を鍛え、12、3歳になるとませた子からその手のお誘いをされるようになった。でも、いいなと思った子と身体を重ねた時は散々だった。それでもその子も初めてだったから、お互い試行錯誤して身体を何度か重ねた。 「カイエって……早いよね」 「……そうだな」  その子も俺を傷つけないようにと考えてはくれたのだと思う。でもその言葉はひどく俺を傷つけた。  初恋は無残に散った。  でもきっとその子を好きすぎたからだ! と思って他に乗り気だった子と身体を重ねてみても変わらなかった。  結果俺は村にいづらくなり、成人すると逃げるように王都へ向かった。  同じ村出身の人の伝手を辿って、すぐに兵士になることができた。  そこで出会ったのがリックだった。  リックはあれから少しの間俺の部屋のドアの前に陣取っていたようだが、 「おーい、そんなカッコしてると襲われるぞー。これ着て部屋戻れー」  と誰かに声をかけられてしぶしぶ戻って行った。その際に、「僕、絶対に諦めないからね!」という捨て台詞を残して。  ……正直諦めてほしい。  だって、あんなでかいの入んない。絶対尻穴が裂けると思う。  っていや、それだけじゃなくて。  リックとなんて考えられない。  さすがに腹が減った。諦めてドアを開けると、そこに何故かリックがいて。 「ええっ!?」 「夕飯は食うんじゃないかと思って待ってたんだ。行こう!」  ドアを閉める前に腕を掴まれてぐいぐい引っ張られてしまった。筋肉はもちろんついてるけどそんな細い腕にどうやったらそんな力が……って思ったところで観念した。リックは魔法が得意なのだった。  リックはそういえばなにかの種族との混血なのだと聞いたような気がする。魔法が得意な種族ってなんだっけ、とか思いながら食堂まで引っ張られて行った。 「ほら、昼飯も食べてないんだろ? いっぱい食べないと……」 「なんでそんなことお前が知ってるんだ!」  何か? ずっと俺の部屋を見張ってたのか? それはさすがに怖いぞ。 「おー、とうとう出てきたかー」 「リック、こっちこいよー」  この寮は兵士から騎士に昇進した者が多いせいか、リックは騎士になったばかりだというのに知り合いはそれなりにいるようだった。 「ごはん取ったら行くー。ほら、カイエ」  促されてトレイを持った。寮の食事はバイキング形式だから好きなものを好きなだけ食べられる。ただし残したら罰がある。皿洗い三日分と筋トレ二時間だ。時間内なら何度取りにきてもいいから俺はほどほどに取ることにしていた。 「おい……そんなに盛って大丈夫か?」 「うん、ここのごはんおいしいよな! 兵士の頃とはえらい違いだよ!」  リックは見かけによらずけっこう食べる。でもさすがによそった量が多すぎるのではないかと思った。そうしてリックを手招く同僚の席に連れて行かれた。 「おー、リック。昼もあんなに食べたのによく食えるなー」  がたいのいい同僚が感心したように言った。 「うん、もっともっと身体鍛えないとだからね! 午後は訓練したし!」 「今日は休暇じゃないのか? 見かけによらず脳筋だなぁ」 「だってそうしないとカイエを口説けないしさ」 「……はい?」  同僚たちと自然に会話しながらリックは飯を食っていく。そこでどうして俺の名前が出るのか意味がわからなかった。 「ああ、リックが押し倒したいのか」 「そう、僕が抱きたいんだよ」 「な、何言って……」  食堂で話す内容じゃないだろうとあわあわしたが、周りは自分たちの話に夢中で全く聞いていないようだった。一応ぼそぼそっとしたかんじで言っていたから誰も聞いてはいない……と思う。 「まー、人は見かけによらないもんだしな」 「逆かと思ってたけどそういうこともあるよな」  なんでこの同僚たちはそんなに聞き分けがいいのか。 「お、俺はやだぞ……」 「大丈夫。毎日口説くから覚悟して」 「な、なんだよそれぇ~……」 「がんばれー」 「リックはいいよなー。独り占めできるもんなー」  頼むからその無責任な応援をやめてほしい。 「そ、そういえばなんで俺が昼飯食べてないって……」 「あー、それ俺。リックがお前の部屋の前でうろうろしてたから俺が見張っとくって言っといたんだよ」 「お前か、ナツ……」  訓練以外ではあまり姿を見ない同僚である。今日はたまたま訓練の後寮に戻ってきていたらしい。ちなみに部屋は俺の隣だ。 「せっかくの後輩なんだから面倒看なきゃだめだろ?」 「……そっちの面倒は看ない。だったらナツが看てやればいいじゃないか……」 「俺は惚れてる相手だけで精いっぱいです~」  だから昼飯を食べていないことを知っていたのか。同僚たちもなかなかに恋多き奴らが多い。 「僕はカイエだけだから」 「だからそういうこと言うなっての……」  おいしいはずの夕飯の味が今夜はよくわからなかった。  一晩寝れば落ち着くかなと思ったけど、残念ながら翌朝には事態が悪化していた。  故郷には帰りたくないけど、どうしようかなとたそがれた。

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