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10.大浴場でたいへんなことに
もう夕飯を食べなければいいんだろうか。
夕飯時は一緒に食べているし、その後逃れようとしてもどうしても逃れられない。
「カイエ、お風呂いこー!」
と言われてそれぐらいならいいかと大浴場に行った。一応簡易のシャワールームは部屋に備え付けられている。シャワーとトイレがついている優れものだ。全て魔石制御なので魔力が少ない者にとっては使いづらいが、俺は一応十分ぐらいシャワーを浴びるだけの魔力はある。……なんか言ってて悲しくなってきた。トイレも水洗で、最初見た時は嘘だろって思った。兵士の宿舎とは待遇が雲泥の差だった。これを用意されているぐらい騎士とは重要な立場なのだなと身が引き締まる思いだった。
それはともかく、大浴場である。ここは一応夕方から夜まで使えるようになっている。
「わー、広ーい! 一度来てみたかったんだよね!」
「泳ぐなよ」
「えー、だめなの?」
「だめに決まってんだろ! 書いてあるだろーが!」
「えー、禁止事項多すぎ」
「……それだけやらかす奴が多いんだろ」
確かに禁止事項と書かれた内容は多岐に渡っている。夕方前に入るなはわかるが、浴槽でバーベキューをするなとかわけがわからないものまである。でもこれが禁止ってことはやった奴がいるんだろうな。何を考えていたんだろう。
毎日部屋でシャワーが浴びられるというのも贅沢だが、湯に浸かる気持ちよさもまた格別だ。
湯舟に飛び込んでいこうとするリックの首根っこを捕まえて、先に身体をしっかり洗わせた。
「カイエ、洗ってよ~。全身泡つけてぬるぬるにしてさ~」
「……そういえば娼館でそんなサービスがあったな。って、娼夫の真似事なんかできるかっ!」
「じゃあ僕がやろっかな! カイエを洗ってあげるよ!」
「やめろ! 寄るな! 触るなぁっ!」
「うるせー」
「じゃれるなら部屋でやれー」
「いいかげんくっつけー」
外野がとてもうるさい。
「くっついていいのー?」
「ああ、くっついたらどっちが夫か嫁か教えろよ。賭けしてんだ」
リックが嬉しそうに尋ねる。同僚が悪びれもなくそんなことを言う。もう全員殴りたくてしかたなかった。
「カイエが僕のお嫁さんになるんだよー?」
「んなわけねえだろうが! 早く身体洗え!」
そんな個人的なことをほいほい教えるんじゃない!
俺は手早く身体を洗い、とっとと湯舟に浸かった。うん、気持ちいい。
「カイエ待ってよ~」
「おー、リック、でっけーなー」
「うわ、見た目に寄らねーな、それ」
「うん、でかすぎるのも困るんだよー」
……ちんちんは大きさが全てではない、はずだ。いや、俺は超早漏だからそれ以前の問題なのだが。
「もー、あんまりじろじろ見ないでよー。僕のちんちんをじっくり見ていいのはカイエだけなんだからねっ!」
見ないし。見たくないし。つか見せるな、そんなもん。
周りがどっと笑った。そりゃー悪かったなー、とか見せるんじゃなくて犯すんだろーとか言いたい放題言っている。やっぱり全員殴りたい。
「うるせーよー」
そう言いながら入ってきたのはリュウだった。
……でっか。なっが。
みんな思わずリュウの股間に釘付けになった。
「……なんだよ?」
基本動じないと思われているリュウだが、さすがに股間を凝視されて少し驚いたようだった。
「リュウ、それ受け入れられるヤツいんのかー?」
同僚が聞く。
「ああ、うちの「天使さま」が毎日よしよししてくれるぜ」
リュウはニヤリとした。
「そういえばそうだった」
「ムカつくー」
「天使さまってでっけーのしかいらねーのかな」
そんなことを言いながらみんなつまらないとばかりにすぐ解散した。
……あんなでかくて長いのを毎日受け入れてるとか、天使さまの尻穴ってどうなってるんだろう。
「カイエはリックのであんあん啼いてるワケ?」
「は?」
ニヤニヤした同僚にそんなことを言われて絶句した。
「なー、どんなかんじなのか教えろよー」
「ぁあっ……!」
近づいてきた同僚に尻をぺろんと撫でられて、思わず声が……。
「え?」
からかいのつもりで尻を撫でた同僚が目を見開く。
「カイエってもしかして……」
「やっ、やめっ、もっ、揉む、なぁっ、ああんっ……!」
がしっと尻肉を掴まれ、むにむにと揉まれた。だめだって敏感なんだからそんなことしたらっ……!
「うわー、カイエすっげかわい……」
「カイエに触るなっ!!」
「わーーーっ!」
ドンッ! と音がしたかと思うと俺の尻を揉んでいた同僚が吹っ飛ばされた。しかも天井まで。そして、バシャーンッ! と水音が。
……全員びしょぬれである。同僚は天井まで吹っ飛ばされて、湯舟に落ちてきた。
「……すっげえな」
同僚たちが唖然とした。
「リック! だめじゃないかこんなところ魔法を使っちゃっ!」
「カイエ! カイエ、大丈夫だったっ!?」
人の話を聞けーーー!! 抱き着いてきて尻をめちゃくちゃ揉むなあああああっっ!!
「リッ、あっ、あっ、もむ、なぁっ、リックッ、ああっ……!」
どさくさに紛れて尻穴を撫でるんじゃないっ! くにくにするなってのっ!
「……カイエかわいかったんだな……」
「……でも、命がけだな……」
同僚が何やら言っていたがよくわからなかった。
当然のことながら、リックと俺はその後しこたま怒られて大浴場の使用禁止となった。切なすぎる。
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