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19.なんてベタな展開なのか

「飲みに行こうぜー!」  とエルクに肩をがっしり抱かれて、俺は街の酒場にドナドナされた。 「僕も行くからっ!」  リックが俺の手をぎゅっと掴み、一緒に向かうことになった。俺たちそんなに酒は強くなかったはずだけど、リックも飲みたい気分だったんだろうか。 「よぅ、カイエだっけ? 相変わらずいい顔してんなー」  この酒場は北の森に行っていた奴がよく使っているらしい。エルクの仲間たちに声をかけられた。 「ははは……」  俺の顔がカッコイイと言われるのはいつものことだ。見た目のよさだけじゃなくて、できれば性的にも強くなりたかったなと思う。敏感なのはもうどうしようもないけど。 「カイエ、最近どーよ?」 「最近? そうだな……」  リックが騎士に昇進して、それからほぼ毎晩……。  夜の性欲処理を思い出して俺は赤くなった。 「お? 恋人でもできたか? 会わせろよ!」 「え……いや、そんなんじゃ、ない……」  少なくともリックは恋人なんかじゃない。毎晩いっぱい身体に触れられて、あらぬところまで舐めまくられてるけど。 「はーい! 毎日僕がカイエを口説いてまーす!」  リックが手を上げて宣言した。やめてほしい。 「あー……確かにカイエの好みっぽいよな~」  エルクがいいかげんなことを言う。俺は自分の好みを貴様に語ったことはないはずだぞ。 「でもまだ恋人じゃないんだ?」 「それはないしょです!」 「へー」  リックも一応下手なことは言わないように考えているらしい。恋人じゃないと言いたくないだけかもしれないが。 「じゃあさ、俺がカイエを口説いてもいいってことだよな?」  エルクが笑って言う。俺は顔をしかめた。 「お前なんかやだね。ぜってー勃たねー」 「何言ってんだ。俺がお前を抱くんだよ」 「はあっ!?」  さらりと言われて俺は耳を疑った。 「俺はヤられるのはごめんだ!」 「そんなこと言わずに一度ヤッてみよーぜ? 案外ハマるかもしんねーし」 「お・こ・と・わ・り・だ!」  残った酒を飲み干して俺は席を立った。 「そういう話をするなら帰る!」 「そう言うなよ~」  エルクがそう言いながら俺の手を取り、そして撫でた。 「!?」  くすぐったい、だけじゃない何かを感じて、俺はバッと自分の手を取り戻す。そして、何故か足が……。 「え? え? な、なに? なんだ?」 「ゆっくりしていけよ」  エルクがニヤリとした。どういうことなのかと床に座り込んだ状態で周りを見回す。そしてやっと違和感に気づいた。  この酒場の中には今、騎士団の、それも北の森に出向していた奴らと俺とリックしかいない。  嵌められた、と思った。 「リックッ!」  もしかしてリックも何か飲まされたのだろうか。椅子には腰掛けたままだが、顔が俯いていて見えない。 「リック、大丈夫かっ!? しっかりしろっ!」 「おいおい、自分じゃなくて同僚の心配かよ。安心しろ、そこのかわいいのも俺たちがたっぷりかわいがってやるからよ」  エルクじゃない同僚が下卑た笑みを浮かべた。 「カイエには手を出すなよ」 「ああ、こっちのかわいいのに相手してもらうさ」  エルクが俺を軽々と抱き上げた。同僚がリックに手を伸ばす。 「リックッ! だめだっ! 逃げろ、リック!」  俺は今ものすごく後悔していた。同僚だからって軽々しく酒なんか付き合おうとしなければよかったと。俺だけなら別に何をされてもしょうがないが、リックを巻き込むのだけはだめだと思った。もちろんリック以外の奴だって巻き込んでいいはずはないけれど。 「おいおい……自分は何されてもいいってのか?」 「リックッ! リック、頼むからっ!」  もしかしたらリックは睡眠薬でも盛られたのだろうか。それとも俺みたいに身体の力が抜ける薬でも……。 「……あー、もう。カイエってば本当にかわいい……」 「え?」  低い、いら立ったような声がした。リックは俯かせていた顔を上げると、腕を掴もうとしていた同僚の手をばんっ! と跳ねのけた。 「いってええええっっ!!」  同僚は跳ねのけられた手を持って叫ぶ。そんなに強かったのだろうか。俺はエルクの腕の中で目を丸くした。 「ねー、カイエ。僕カイエのこと本気で好きなんだよ」  リックが立ち上がり、俺の目の前にきた。 「う、うん?」 「このままだとカイエ、ソイツにヤられちゃうよ?」 「そんなのやだっ!」  俺は慌ててエルクの胸を押そうとしたけど全然身体に力が入らない。この薬、首から下の筋肉が弛緩するようなものらしい。なんなんだよその、いかにもいかがわしいことに使いますって薬はあ! 「カイエ、僕カイエを抱きたい」 「そ、そんなの、むり……」  だってリックのでかいし、しかも長いし。 「てめえ、魔法使いか……」  エルクが忌々しそうに呟く。 「違うよ。僕は騎士だよ。まぁ、魔法も使えるけどね」  リックはそう言って、トン、とエルクの肩を押した、と同時ぐらいに俺を自分の腕の中に納めてしまった。 「え?」  ズダーン! と激しい音がした方を反射的に見る。なんとエルクが椅子やらテーブルやらと一緒に酒場の隅でひっくり返っていた。 「え? え?」 「いやー、こんなとんでもない酒場だったなんて知らなかったなー。まさか薬入りの酒を飲まされるなんて誰も思わないよねー? ねえ、マスター?」  にこやかにリックが言う。 「……え、あ……はい……」  カウンターで目を見開いていた髭面のマスターが力なく返事をした。あ、この店終ったなって思った。

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