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3話
その日真矢はすこぶる機嫌が良かった。そのためになぜか必要以上にシフトに余裕を持って到着した。一服してから制服に着替えたけれど、時間をもてあまして口寂しくなる。とはいえ着替えてしまったゆえ煙草は吸えない。それを紛らわすため、表のコンビニへ降りた。
その夜のコンビニのレジはやたらと混んでいた。
フリスクとお茶を片手に並ぼうとすると
「あ。」
同じタイミングで人が並ぼうと足を踏み出して、それから引く。
「どうぞ」
「ざっす。…あ。」
真矢が前を譲られて顔を見れば、美容院の“扇子タバコ”だった。煙草を吸う仕草をしてみせると気づいたようで疲れたまま形だけ笑う。
「ああ。どーも」
別段必要に迫られた訳では無いが、やたら機嫌の良い今日の真矢の口はおしゃべりだった。
「美容院すよね、」
「!…そうだよ。」
話しかけられたことに少し驚いたらしい。
「終わる時間すか、」
「そうそう。ちょうど閉めるとこ。」
列が少しずつ進む。
「閉める当番、とかなんすか。」
「まあー…。俺店長なんだよ。雇われのね。」
とても歳上という訳ではなさそうだったが、少し摺れた顔の筋肉が皮肉に笑う。雇われの店長は皆こんな顔をするのだろうか。
「そうなんだ。」
「うん。……マヤくん、か。」
制服に着いた名札を見て呟く。
「源氏名みたいなヤツすけどね。」
「なるほど。」
本名は、真矢・マヤと書いてシンヤと読むが、別に教える義理もなければ聞かれてもいないため真矢は流した。
「お兄さんは?」
「弥生。」
「弥生サンていうの?珍しいすね
。」
「はは、源氏名じゃないよ。…女みたいだよね。」
自嘲気味に笑って冗談を言う。なんだかその笑い方は弥生に似合って、真矢は綺麗だと思った。
「綺麗な名前で良んじゃないの」
「…そうか。」
不意を打たれてほっとしたような顔をすると、少し幼さが覗く。
「お待たせ致しました、お次のお客さまどうぞー」
レジが空く。
「じゃ、」
「じゃあ」
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