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オークション 3

 なんだよ、これ。冗談だろ? 確かにファンタジーめいたことを一瞬だけ望んじまったかもしれねえよ。でも、そんなの真に受けなくたっていいだろ? 俺が望んだのは祝福とハーレムだ。  間違っても化け物たちに囲われる展開なんて望んでねえよ!  俺はギュッと瞼を瞑った。強く瞑ってもう一度開けたら、この光景が全部泡のように消えて無くなると思ったからだ。そう思いたかったのに……  刹那、頭の中で直接声が響いた。 『好きにしろって言ったの、お前だろ?』 「えっ……?」  バチッと瞼を開けると、目の前には土塗れの豚の鼻があった。 「うわぁっ!?」  驚いて仰け反ると、荒い鼻息を吹きかけられた。すごく臭いし、生温かいのが気持ち悪い。フゴフゴと鳴るその音は水でも混じらせているのか汚らしく、ついでに下の口元は緩やかなカーブを描いていた。  違う、今の声はこいつじゃない。しかし人でもない。ここにはいない、別の何かだ。  同時に、俺は確信した。  ああ……本当に死んだんだ。  今いるここが現実で、今ある現状が本物であることを知り、俺はついさっき口に出しかけた言葉を頭の中で唱えた。  奴隷。きっとそれだ。俺は奴隷として、ここにいる。  傍の豚は俺の心情など知ろうともしないだろう。愛想のいい笑みを貼りつけ、周りの連中へと言葉を投げかける。 「見事な銀髪、そしてブルーの瞳っ! 顔立ちもヒトの中では上の上! 日焼けも傷もございません! ああっ、この身体の汚れは大丈夫っ! 水をかければすぐに落ちます! 性別はオス! 出自は不明ですが歳は成人間近といったところでしょう! なに、猫と違って発情もなければメスのように孕む心配もございません! 感染症検査もオールクリア!!」 「はつ、じょう……? はら、む……?」  人の、そして男に向けてはおよそ聞いたことのない単語の数々に、俺は意味もわからず復唱する。わからない。この豚が何を「売り」にしたいのか……。売り? ああ、そうか。こういう時だけは察しがいいんだな、このポンコツ脳は。ちくしょう。  奴隷の扱い。加えてペットの売買に使われそうな丁寧な商品アピール。  俺は売られるんだ。こいつらに。  周りを取り囲み俺を品定めする、この醜い化け物たちに。

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