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【2020/05 牢獄】⑥
《第二週 木曜日 朝》
「ハルくん、手当して」
ああ、またか。
泊まり込み連勤からの明け(月曜)セックスして、帰って寝て、起きて、(火曜)添削採点して、授業やって、帰ってきて寝て、もう一日もらった休み(水曜)思う存分だらだらして、今朝起きて最初に見たメールがそれ。
「いいよ、シフト早々だから午後なら」
直ぐに返信が来た。
「ありがとう、待ってる」
もう各方面に迷惑掛かりそうだからやめるかもって言ってたのに、やめてないんだな。
思わず溜息をついてしまう。
玲にとって、おれは何なんだろうと思う。
おれにとって、玲は初めから友達なんかじゃない。
ずっと独占したくて堪らない、世界で唯一人の愛おしい存在なのに、玲がいろんなところでいろんな相手にちょっかい出して回ってるのが嫌だ。
それなのに、自ら性的にも玩弄されて辱められて、
それでも足りなくて時々急におれにまでそういうことを求めてくる。
玲に性行為を教えてしまったのはおれだし、玲に利用されること自体は嫌じゃない。
求められること自体は嬉しいけれど、良心が痛んで苦しかったり、ときどきその内容が恐ろしくなる。
そうしないと図れない心の安定ってなんなんだ。
長年手をかけてケアしてもらっても、めいっぱい学んで研究していても、回避できないなんて。
取り返せない記憶、逃れられないフラッシュバック、再体験化。残酷すぎる。
タイムマシンがあったら、あの事件の日の朝に戻って、おれが守ってやれたのに。
もしそれでおれ自身が死んでしまったっておれは構わない。
あの頃のおれ本人は世間から隠された、存在しない子供だったのだから。
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