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【1989/05 komm tanz mit mir】③

溢れた体液を拭い、汚れたティッシュを新たに何枚かティッシュを引き出して包んで捨てて、洗面所に行って手を洗って、ついでにトイレに寄って、また手を洗った。 全身が気怠く虚脱感に覆われていて、頭もぼんやりしている。本当ならひどく汗をかいたので、もう一度シャワーをお借りしたいくらいだったが、こんな状態で、さっき入れさせてもらったばかりで汗だくなのは不自然だ。明日の朝貸してもらえるか訊くことにして部屋に戻った。 戻るとアキくんは、あんな事をした張本人のくせに先に寝落ちていた。しかもおれが寝ていた壁側を乗っ取ってこちら側を向いて。戻ってきておれが突っ込むのを待ってたんだろうか。唇が少し開いて小さな前歯が覗いている。 さっきまでの所業が嘘のようなあどけない寝顔。思わずいたずらしてやりたくなってしまう。できるだけ揺らさないようそっとベッドに上がり、再び上掛けにの中に潜ってから、横臥しているアキくんのパジャマの裾から手を入れて、すっかり冷水で冷えた手で裸の脇腹を触った。 「ん、ハルくん、おててつめたい…」 目を覚ましたアキくんは半目でおれの姿を確認して、脇腹に触れたおれの手を指を絡めて握った。そしてそのままその重ねた手を、腿の間に挟んだ。無駄な肉のない細い脚の間は思ったより温かく、大人びた体躯の割に、当たる性器の感触は小さく柔らかかった。 「早く寝て、明日もいっぱい遊ぼ…」 そう言うとアキくんは完全に眠りに落ちてしまった。思いの外消耗したのか、おれも手が温まってくると自然と眠気が下りてきて、意識が薄らいできた。向かい合わせでアキくんの寝顔を見つめていたけど、徐々に目が開けていられなくなって眠りについた。 《第二週 土曜日 早朝》 朝、カーテンを開ける音と、朝日が差し込む眩しさで目を覚ました。飛び起きたおれにアキくんのお母さんが「おはよう、眠れた?」と笑顔を向ける。カーテンをタッセルで留めると、アキくんにも「アキくん、みんなもう起きましたよ」と声をかけた。 「ん~~~~」 上掛けに潜ったまま、アキくんは出てこない。繋いでいた手はいつの間にか離れて、アキくんはややうつ伏せになって、筒状のクッションを抱いて寝ていた。 「ハルくん、お手数だけどアキくん起こして洗面所連れてってあげて。多分濡れるの嫌がってちゃんとお顔洗わないと思うから、絞ったタオルで拭くだけでもいいからやらせておいて」 そう言うと部屋を出て、リビングダイニングに戻っていった。 「む~、ちゃんとできるもん…」 中で伸びをしてから、うつ伏せの状態からのろのろと起き上がって顔を出したアキくんはまだ眠そうで、ほとんど目が開いてなかった。こんな様子を見ていると、益々本当にあの出来事はおれの願望からの妄想か、そういう夢だったんじゃないかと思ってしまう。 なんとかベッドから出たアキくんの手を引いて、洗面所に行く。かわいいペンギンの絵がついたタオルが掛かっているので、おそらくこれがアキくんのだと思い、手にとって渡した。 「はい、アキくんこれ濡らして絞ってお顔拭いて」 アキくんはシンクにお湯を溜めて、タオルを浸してからゆるめに絞って顔をおっかなびっくりという感じにちょいちょい拭いた。濡れるのそんなに嫌なんだ。アキくんからタオルを受け取って、水分をできるだけ絞ってから、改めて全体を拭いてあげた。 下ろしたてと思われるタオルが掛かっているのでお借りして、おれもその残り湯で顔を洗った。アキくんは横から「こわくないの?」という感じでじっと覗き込んでいる。動物みたいだ。昨夜のお風呂なんか、頭洗うときなんてどうしていたんだろう、大変だなあ。 シンクのお湯を抜いて、それぞれのタオルを掛かっていたところに戻して、アキくんの手を引いてリビングダイニングに向かった。

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