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【2020/05 速度と密度】①

《第3週 金曜日 夜中》 東新宿の駅付近でタクシーを降りて、コンビニで飲み物やら明日朝食べられそうな軽い食事を仕入れて、先生のマンションに向かう。 「表向き休職扱いになるって言ってましたけど、今のところには住み続けるんですよね?」 「うん、辞めるにせよ休むにせよ緒方先生の物件だから出たほうがいいかなと思ったんだけど、住む人居ないと傷むからそのまま住んでてくれって言われた」 先生はエレベーターホールで「あ、」と声を出して一旦エントランスに戻って、ポストを確認して中に溜まってたチラシや郵送物を手にとって戻ってきた。 「いつも面倒で無視して溜めちゃうんだよね…公共料金の領収書とかそれで失くしちゃって、南に怒られるんだよなあ」 一枚一枚確認して、重要なものがなかったことを確認すると、まとめて雑巾を絞るようにギュッと捻じった。しかしそれを靴を脱ぐ際に玄関の手洗い場で手を洗うために靴箱の上に置き、そのまま忘れてるみたいだった。 「先生、これは?」 「そこのペーパータオル捨てるゴミ箱に入れていいよ」 「いや、そうじゃなくて、自分で捨てなきゃだめでしょ…」とは思いつつ、おれも手は洗うのでそのついでに捨てた。 リビングに入ると先生は緊張が解けたのか、白いふわふわのラグの上に鞄を放り出し、ソファの上にスーツのまま倒れ込んでクッションに顔を埋めて情けない声を出してノビをした。そして、やがてフラフラと起き上がって寝室へ向かい、着替え始めた。 おそらくすべてオーダーと思われるスーツやシャツはピッタリと体に沿っていて、改めて薄闇の中で見ると艶めかしい。上着やスラックスを脱ぎ、シャツと下着と靴下に、シャツガーターとソックスガーターという出で立ちのまま、カフスを外してケースに仕舞う姿には否応なく唆られるものがあった。 ケースをクロゼットの中の引き出しに片付けるのを見計らって背後からそっと近づいて、抱き寄せて耳元にキスした。先生は笑っておなかに添えたおれの手を剥がそうとする。 「え、今日しないんですか?」 「違うよ、珍しくちゃんと食べたから腹が出て恥ずかしいんだってば」 そんなこと言われたら、意地悪するつもりじゃないけど、余計触りたくなってしまう。おなかを撫でると確かに、前に此処で抱いたときより出ている感じがする。しかも胃下垂っぽいのか張っているのか、やや下のほうが出ている。 「やだ、擽ったいよ」 恥ずかしがって照れ笑いしながら逃れようとする先生と揉み合っているうちにシャツガーターの金具が外れる音がした。 「先生、そういえば、その、ガーターってどうやって留めてあるの?カフスもだけど」 「あ、あぁ~そっか、着けてる人なかなか見ないか…」 先生はガーターを外してながら、何処をどう留めてあるのか見せてから、さっき片付けたカフスも出して、付け方を教えてくれた。そして改めてそれらを全部片付けてシャツを脱ぐと、先生はクロゼットからハンガーを一本おれに差し出した。 おれが服を脱ぎハンガーにかけると、先生は振り返り、手に持っていたスーツを掛け終えたハンガーをおれから奪って、引き換えにふわふわの真っ白いパイル地のバスローブを抱えたままおれの胸元に飛びこんできて手渡す。 「おれは役員会の前に一回シャワー浴びちゃってるから、長谷入っておいでよ」 おれはそれを受け取ると、そっとそのままベッドの上に置いて、再び先生を、今度は真正面から抱き寄せてカールした髪の毛の上から額にキスした。

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