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【2020/05 深度と濃度】②

大きな通りに出て道なりに歩いていけば自然と目的地に出られる立地、或いは電車一本で乗り換え無しでというのは実に便利だ。多摩時代は新宿三丁目の駅まで歩いて出てそのまま乗れば京王線に直結で行けて楽だった。 今は正直通勤には便利とは言えないがあの立地をほぼタダ同然で使わせてもらえるのが有り難い。あと、思う存分好き勝手リフォームさせてもらってしまっているので、今回あそこを出る羽目にならなくて正直助かった。 おかげで安心して長谷を誘えたし。あの書庫をひとりで整理するのは骨が折れるし、そのためだけに業者依頼したりするのもちょっと今の状況だと怖い。そんな中出かけるのは怖くないのかと言われると、怖くないわけじゃない。 でも、なにせ同伴しているのは警察官で、一見なんでもない格好だが中はフル装備だ。先方サマだっておれの交友関係くらい洗ってるだろうから迂闊には近づけまい。しかも新宿なんかで揉めたら他の団体からも目をつけられて後々厄介だ。 「自分で出かけるって言っといてなんだけど、骨盤の中だっる…近くてもタクシー呼べばよかったわ」 「ほんと、すみません…調子に乗って二回も…」 長谷はでかい背中を丸めてしょんぼり顔でおれの手を引いて歩いている。 「いや、別にいいんだよ、おれもしたかったから断らなかったんだしさ」 前にも思ったけど、大型犬の子犬のような感じがする。今はおそらく耳も尻尾も下がりきってリードを引かれてトボトボ歩いているような感じに見える。 「でも、体格と体力の差があるの、もうちょっと考えないとダメかも…あんななってる先生見るとたまらなくなるんですけど、死んじゃうかもって思う瞬間もあったりして」 「怖くなる?怖がりだよねえ長谷…」 本当に、仕事大丈夫なんだろうか。鑑識もいろんな担当があるし、今後どんな仕事で、今までどんなキャリアだったのかとかは詳しく聞いてないけど、どうやって今までやってきたんだろう。実戦的な訓練もあるだろうし武道もやらされるだろうに。 「うちの本棚、背があまり高いもの置いてないんだけど、あれ本が増えた時に本棚重ねて同じような棚追加で入れられるようにしてあるんだよね。だから一旦今日は中身を出して重ねて並べ直して倒れないように耐震器具つけたいのさ。一人じゃ無理だろ」 「あ、そういうことなんですね、そのくらい全然手伝いますよ」 ちょっと表情が明るくなった。なんだろ、おれが自分のためにあれこれ考えてたのが嬉しいのかな。単純に準備が進むのが嬉しいのかな。おれはそういう点まで読めないな。ちょっと想像するのが苦手だ。でも嬉しそうだからいいや。 「そう、で、机を空いたとこに入れる。あとカフェテーブル片付けて、大きい楕円のこたつテーブルがあるからそっちに入れ替えるよ、食事するのに不向きだし。お前用の机と椅子は後日頼んでおくから」 「てか、机と椅子って…おれそのこたつテーブルで十分ですよ、今そういう感じで暮らしてますし」 長谷は平気な顔で言うけどそれはダメだ。 「いや、腰痛めるからちゃんとしたの買ってやるよ…一旦腰やったら身体の使い方変えないと癖になるし、下手すりゃ一生からだめだよ…おれもハルくんに前それで叱られたんだから…今は良くても年取ったら来るから…」 おれが深刻な顔でいうと、また長谷は自分の行いを思い出したのかしょんぼりしてまた謝った。

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