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【2020/05 深度と濃度】⑦

「体温測りました?もう薬とか飲まれてます?冷やすものとか用意しますか?それともなにか温かい飲み物とか…」 おれがオロオロしていると先生は「こういうのは一日ゆっくりしたらすぐに下がるんだ、平気だよ」と言って体を起こした。 「餓死しかかったせいで萎縮して出なくなったぶんホルモン補充してるし、肝臓も腎臓もダメージ受けてるから経過観察してるし薬飲んでるし、メンタルの薬も飲んでるし、栄養状態も悪いし食事指導守れてないし、言っとくけどほんとおれ長生きしないと思うよ。長谷はさ、本当にそれでもおれがいいの?」 「うーん、先生の身体の何処がどう悪いとか、どんな状態かって、おれは正直今はまだ何もわかってないですけど、おれは先生がいいんならいいんです。なんとかしますから」 跪いて、先生の膝に手を載せて見上げると不思議そうにおれを見つめている。 「なんとかって?何をどうするの」 「うーん、まあ、それは追々で」 おれが言うと先生は吹き出した。 「とりあえず、1竿本棚重ねたけど問題なく出来ましたよ。よかったらもう一台も同じように積みます耐震器具はあのサイズでいいみたいなので追加で注文しておいてください。棚自体と本の重さがあるから無くても崩れないですけど念の為。あと、ちゃんとベッドで寝ててくださいね」 「うん、わかった。ありがとう…ごめんね丸投げにしちゃって」 おれは先生が寝室に向かい、部屋着に着替えるのを見て思い出して、ついでに自分も買って貰った部屋着に一緒に着替えた。 「パンツはプレッサーにかけて、あとは洗濯機入れておいで。乾燥までやってくれるから楽だよ」 「いいなあ。うち、今住んでるとこ家電家具付きなので本当におれが持ってくるものって少ないんですよ。よかった、先生の家なんでもあって」 その話の流れでまた思い出して、この部屋の住所を教えてもらう。通知が来るようにしてあるからこっちで受取日時調整できるし、送るのはいつでもいいと言ってくれた。週明け早速準備しよう。 書庫に戻ろうとした時、先生が改めておれを呼び止めた。 「ねえ、今日の晩ごはん、買ったのまだ残ってるからそれでいい?」 「いいですよ、残りで。てか、机動かすのまでは今日中は出来なそうなんで、泊まってっていいですか」 先生は嬉しそうに頷いた。おれはベッドに潜り込むのを確認してから部屋を出た。 ひとりで引き続き、棚から本を抜いて、積み上げて戻すという作業を繰り返す。奥の壁に3段3列の棚を2段重ねたものが2竿の状態になった。窓側は少し低い2段3列の窓下くらいの棚なので、部屋の中央にある3段3列の棚に重ねても上の方に余裕がありそうだ。棚の上や床に積んだままの本はそこに置けそうな気がする。 あ、さっきのとこも上になにか置くかどうか訊くんだった。忘れてた。 部屋の中央に重ねてない棚が半端に残るけど、同じような棚を追加で入れて本入れるとこ増やすのかな。これも確認しないと。 部屋を見渡してみると窓と反対側の壁には文庫本や新書が詰まった天井まで伸びた薄い棚が立っていて、その隣に一応クローゼットがある。蛇腹折りのウッドカーテンで仕切られているが、この中ももしかして全部本だったりするんだろうか。おれはこっそり少しだけ開けてみた。 なんてこともなく、普段使っていない季節の家電や衣類、鞄や靴、ストックしてある生活消耗品が整理して置いてあるだけだった。 しかし、それは一番良く見える広い中段のところだけで、下の段には見覚えのある箱が並んでいた。側面に警視庁と印字され、マーカーで品目が書かれている。現場押収品を入れる箱だ。

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