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【2020/05 秘匿】①
《第4週 月曜日 日中》
帰るつばさを玄関で見送って、適度に体力を消耗したおれはあっという間に寝落ちしてしまった。辛うじてスマートフォンに充電することとアラームをかけることだけは忘れてなかったので出勤2時間前に無事起床した。
その後もあれこれ考えることなく身支度を進め、家を出て近くのコンビニで適当に歩きながら食べられるものや飲むものを買い、第一京浜沿いを歩いて職場に向かった。道なりに歩いていってホテルと都営住宅の間から桂坂を登れば警察署のすぐ横に出る。
交通量が多い広い道路ではあるが、品川駅周辺以外は歩道を歩く人もあまり多くはない。買ったものを食べながらのんびり歩いても、途中横断するため信号を待つ時間や、坂道があることを含めても、30分とか40分もあれば着いてしまう。
予定通り、始業の30分前に到着してロッカールームで行動服に着替えて自分の部署で今日師事してくれる先輩を待った。出勤してきた先輩とともに昨晩から勤務の先輩から引き継ぎを受け、朝礼に参加して、勤務開始となった。
午前は収集した写真資料の整理とかが主で、途中から事故の連絡があり交通課とともに臨場して撮影係の補助や微物の収拾などの手伝いをした。色々やらせてみてから担当を改めて決めるということなので、最初は頼まれごとはなんでも積極的にやることにした。
戻ってきてやや遅い昼食を摂るため、上半身だけ着替えて近くのスーパーに買い出しに出る。相変わらず品揃えが普段立ち寄る近所の小さいスーパーなどとは段違いだ。おいしそうなものもたくさんあるけど、あまり高価なものは買えない。
なぜなら、昨日無駄遣いをしたからだ。それどころか、おれは月初にも一度利用しててあれが二度目。120分2万4千円を2回だ。しかもおれは2回目はカードを切ったけど1回目のときは現金で3万円払って釣りはいらないと全部渡してしまっていて、更にそこにホテル代4500円ほど使っている。
職業柄そんなに安月給ってこともないし、賞与だってちゃんと出るし、ジムに通っている他には趣味もないし、生活だって最低限で回しているから、心配するほどのことはない。でも、おれには風俗で浪費するという人に言えない悪癖がある。
今でこそ月1~2回とはいえ、一次はそれどころじゃなかった。そのせいで、それなりの収入があって10年も勤続しているのに、多分同世代の寮住みの人間と比べたら貯蓄とか資産は全然ない。何か遭って必要なときに出せるくらいはあるけど、将来を考えるとちょっとまずい感じですらある。
そういう状況なのにまた今月始め早々に3万5千円使って、そしてまた再来月2万4千円は確実に引かれるというのはそれなりに痛い。節約、しないと。おれも料理覚えて自炊したほうがいいのかな、簡単にでも作り置きしたり弁当作ったほうがいいのかな。
迷いに迷った末、鶏の竜田揚げが挟まったパンと野菜ジュースを手に署に戻ってしょんぼり部屋の隅のテーブルで食べていると、スマートフォンのバックライトが点いてメッセージの着信通知が表示された。
メッセージは、藤川先生からだった。欲求に答えられなかった情けなさや、先輩を拒まなかったあのときの先生の顔、昨晩の自分の行いを思い出して、心臓を鷲掴みされたように胸が苦しい。
そもそも先生は警察の聴取で疑いは晴れたんだろうか。おそるおそるスマートフォンを手にとって、メッセージを確認する。
「おはよう、今起きた
取り調べは終わって、署員に警護されて近くのホテルに泊まった
自宅には戻らないほうがいいと言われてるので暫く滞在します
それでお願いなんだけど、
休みの日でいいから当面必要なもの買ってきてほしいんだけど、いい?」
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