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【2020/05 秘匿】③
「いいところに連絡が来た、有能な人材は違うなあ」
返信するとそっけない一言が返される。
「なんですかいきなり気持ち悪い…」
苦虫を噛み潰した顔で画面を見ているのが想像できて面白くてしょうがない。
「先生のパトロンだったヤクザがうちのERで死んだせいでまた騒がしくなってるんですよ?緒方先生から連絡行ってないですか?」
そういや、正直朝イチで呼び出されるかと思ってたし、今度こそクビになるだろうなと思ってんだけど、何も来てないな。
「特に連絡ないよ。ところでおしゃれボーイの南くんに是非お願いしたい仕事があるんだけど時間ある?」
「何なんですかさっきから、人おだててゴマ擦っても何も出ませんよ?」
とかなんとか言っちゃっても、文句言いながらも南はちゃんと指示したら期待以上に働いてくれるからなあ。
「安全が確保できるまで暫くホテル住まいせざるを得なくなっちゃったんだけど何も持ってきてないからそのまま寝ても良さそうな部屋着と仕事モードになれそうなオフィスカジュアル的な服と靴下とか下着とか適当に買ってきてほしいんだけど」
ベタ打ちで送ると、掌とお金の絵文字が並べて送られてきた。カネ出せって、そりゃ出しますとも。
「オンラインで振り込むから口座教えて。入金されたら確認のため着金わかるように履歴のキャプチャ送って。」
早速送られてきた口座にインターネットバンキングのアプリを起動して振り込む。
「てか先生、おしゃれボーイってなんなんですか。おじさん感が一気に高まりましたよ。」
いや、実際おれ初老のおじさんだよ。今更なんだよ。
そう思いながら待ってたらキャプチャが送られてきた。よしよし、10万円あれば十分でしょ。
「念の為サイズ感の目安教えて下さい。あと、なんか着る物以外で欲しい物ないですか。」
身長体重3サイズと、オーダーでスーツやシャツ注文するときに使ってる採寸メモ、靴のサイズと足型などをまとめて送りつけた。そして欲しいアイテムの一覧を送った。
「即日配送してもらえるところで注文できるものはだいたい買ったから大丈夫とは思うけど、なんか思い出したらまた随時頼むと思う。」
「何度も行くのめんどくさいんでまとめてにしてほしいです。そもそもどこ泊まってるのか教えて下さい。」
肝心なことを伝えてなかった。泊まっているホテルの情報を地図アプリから送る。
「こんな非常時にこんなとこ泊まって贅沢しちゃって、これだからおぼっちゃんは。」
「仕方ないだろ、此処が湾岸署の最寄りなんだよ。」
起き上がって窓辺に立って、遠くに品川周辺が見えるほか何もない寂しい景色を写真に撮って送る。
「退屈してるから早く来てよ。話したいこともあるしさ。」
「退屈なら置いてある本とか資料でもお持ちしますよ。置いてきちゃった仕掛りの仕事とか手を付けなきゃいけないことあるんじゃないんですか。」
さすが察しがいいなあ。思い出せる範囲でピックアップしてきてほしいものを羅列して送ると、取りまとめてゆうパックで送るので部屋番号を教えてほしいと来た。そういや部屋番号さっきホテルの情報送ったとき送ってなかった。
「いや、さすが。よく気が利くなあ。」
「先生が忘れっぽすぎるんですよ。1つ1つ細かく具体的に思い浮べて指示はできるのに、なんで所々でスポンと大事なこと忘れちゃうんですか?」
いや、どうも脳に性能がいいところと悪いところがあって。すみませんね。
「なんでだろうねえ?」
「なんでだろうねえ?じゃないですよ。とにかく、これからじゃあ買いに行ってそのまま向かいます。このアイテムでいいかどうか、写真撮って送りますから起きててくださいね。」
いや、本当に気が利くなあ。南はやさしいね。
「はいはい。ありがとう、じゃ、よろしくね。」
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